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3635. 成人発達理論やインテグラル理論を学ぶ際に求められる「醒めの体験」


時刻は午前六時半を過ぎた。今朝は六時前に起床し、一日の活動を緩やかに始めた。

昨夜の就寝前の日記で書き留めたように、今日が本当にやってきた。再び新たな一日が始まったのである。

夜中に小雨が降っていたのか、書斎の窓には微細な雨滴が付着している。

闇の世界の中で就寝し、闇の世界の中で目覚める。そうした様子を眺めるとき、私たちは本質的には闇を通じて——ないしは闇の中で——目覚めていく必要があるのではないかと思えてくる。

ちょうど現代社会は、闇の中の世界として存在している。偽りのまばゆい光だけがそこに差し込んでいる。

今日は土曜日であるが、午後から一件ほど協働プロジェクトに関する仕事がある。それ以外の時間は、日記を執筆することや過去の日記を編集すること、そして作曲実践とウィルバーの書籍の監訳の仕事に時間を充てていきたい。就寝前には願わくば、ゴッホの手紙の続きを読んでいこうと思う。

監訳の仕事に関して言えば、今日はいよいよ本文の最終章である第七章の翻訳をレビューする。昨日言及したように、本書は注記も充実しているため、注記に関するレビューは明日・明後日、ないしは明々後日まで見込んでレビューを進めていきたい。

昨日の日記の中で、今回インテグラル理論を紹介するに際しての諸々の注意点のようなものを書き留めていた。そこには、紹介する自分自身が注意しなければならない点も含まれていたし、インテグラル理論に触れる実践者に向けた注意も含まれていたように思う。起床直後もまたぼんやりとそれらの論点について考えていた。

インテグラル理論は優れた洞察と実践を豊かにしてくれる一つのメタ理論であることは確かだが、そもそもこうした理論の活用の矛先が向かう問題そのものの性質や構造を深く認識する力がなければならない。そうした認識能力がないままにインテグラル理論を活用しようと思っても、問題の解決はおろか、単にインテグラル理論をわずかばかりにかじる消費行動しか生み出さないのではないかという危惧がある。

確かに、インテグラル理論は、自己及び自己を取り巻く社会の構造的な問題を認識していくための力を涵養してくれる枠組みとして生み出されたものなのだが、この理論を学び始めた人がそうした認識能力を獲得していくことは稀であるように思えてくる。

その要因について考えてみると、それは多岐にわたっており、またそれらが関係し合っていることを考えると、一つの要因に還元することはできないが、今朝方ふと考えていたのは、インテグラル理論を学ぶことと並行して、ある個別具体的な実践領域に関する探究と実践が中途半端なものであることが一つの要因として挙げられるのではないかということだった。

これはビル・トーバートの段階モデルが指摘するような「専門化型(expert段階)」の探究と実践が必要だと述べているわけでは決してなく、一つの実践領域をこれ以上ないほどに突き詰めていった際に必ず突き当たるであろう「その領域固有の限界」に気づくこと——あるいは、その領域固有の支配的な価値観の所在を突き止めること——が大事なのではないかということだ。

私はこれまで、成人発達理論やとりわけ非線形ダイナミクスに代表されるような複雑性科学に関する探究をしていく中で、この点に気づかされる経験があった。直近で言えば、まさに複雑性科学の理論と手法を活用した発達研究に邁進していた最中に、ある時ふと、「醒めの体験」をすることになった。

端的には、複雑性科学の理論と手法を活用して研究をしているということそのものが、当該科学領域の狭い世界観の中での営みに過ぎないということに気づいたのである。その他にも、研究で用いる理論や手法そのものが、その科学領域の特定の世界観によって支配・決定されていることに気づいたのである。

成人発達理論に関しても似たような醒めの体験を経験している。もちろん、複雑性科学や成人発達理論の枠組みが特定の文脈において有用であることは間違いないが、そうした科学領域や理論的枠組みが、実はある限定的な世界観によって支配されている可能性を疑えることが重要なのではないかと思う。

成人発達理論やインテグラル理論の実践者に対していつももどかしく思うのは、個別具体的な探究と実践を中途半端なところまでしか推し進めていかないことである。その状態のままでは、いつまでもそれらの理論を消費する程度にとどまり、下手をするとそれらの理論に食われる、ないしは夢の世界に引きずり込まれる——というよりも、既存の夢の世界を強固なものにすると述べた方が正確かもしれない。

自らが従事する探究と実践が、ある特定の価値観でしか通用しないものであるという可能性に気づくまで、徹底した探究と実践を行う必要があるように思える。それ以外に醒めの体験をもたらすものにはどのようなものがあるだろうか。引き続きこの点について考えていく必要がある。フローニンゲン:2019/1/5(土)07:15

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