日曜日が静かに終わりに向かっていく。時刻は午後七時半を迎えた。つい先ほど夕食を摂り終え、これから就寝に向けた活動に取り掛かる。
夕食を摂りながら、ぼんやりと雑多なことを考えていた。私が日本を離れている間にTPPに関する取り決めが生まれ、今でもその取り決めに関して色々と論争が起こっていることをここ最近改めて知った。
今でも覚えているが、最初にTPPの名前に触れた時、そこに潜む個別具体的な諸々の問題に私は全く気づかないような状況であった。改めてその取り決めの具体的な内容を眺め、それらが各産業に及ぼす影響などを考慮に入れると、TPPというのは日本にとって大きな危険性を持った取り決めなのだということが素人にもわかってくる。
私はTPPについての専門家ではないため、多くの点を見落としているだろうが、自分なりに色々と調べていると、それが持つ問題の方が便益よりも大きいように思えて仕方ない。今、日本の国民はTPPについてどのような考えを持っているのだろうか。
そうした問いについて考えていると、もしかしたら日本国民は全くの無関心である可能性がある、という考えが浮かんだ。正直なところ、TPPの問題が顕現化したら、自らの生命の危機が脅かされるような事態につながっていく可能性が十分あるにもかかわらず、無知でいられるというのはどういうわけか考えていた。
国民は無関心であるというよりも、巧妙に無関心の状態に貶められてしまっているか、さらにはTPPがさも国民にとって便益のあるものであるという虚飾の情報にがんじがらめにされてしまっている可能性もある。そこからさらに、こうした国民を思考停止状態にする根源はなんなのかについて考えていた。
これは発達理論の観点からすれば、なぜ多くの人は高度な認識の枠組みを獲得することができないか、という問題とも密接に関係しているように思える。その根源に関しては様々なものが考えられるが、一つには情報操作と情報隠蔽という古典的なものが挙げられるだろう。
だが、これはほぼ周知の事実になっているにもかかわらず、それでも国民が情報を疑い、検証する態度を見せないのは何故なのかについて考えていた。そこには現代の病のようなものが見えてくる。
仮に情報が操作され、隠蔽されていることを知った場合、本来であれば、自らで情報を集め、それを検証していくということが起こりうるはずであるが、そもそも広く世に報道された情報を純朴に信じるというのは、この現代社会における標準化・平準化の風潮と関係しているように思えてくる。
そこでは、当たり障りのない画一化された情報が世に投げかけられ、多くの人は標準化と平準化に飼い慣らされているがゆえに、そうした情報を純粋に受け取る。そこから先、自らその情報を検証していくというようなたくましい知性が発揮されることはなく、そこでは純朴に与えられた情報を信じるという行為だけしかなされない。
多くの人の知性が継続的に育まれていかないというのは、標準化・平準化による差異の喪失が関係しているように思う。発達の根幹原理には、反復と差異という二つの異なる性質があり、私たちは絶えず自己の同一性を維持しながらも、t+1時点の自分はt時点の自分とは異なるという差異を持つ。
本来、健全な発達は、この反復と差異の双方の働きによってなされていく。だが、この現代社会においては、様々な点において標準化・平準化の力が働いており、私たちは自己の内側に差異を健全に育んでいくことができなくなりつつあるのではないか、と私は危惧している。
そうした状態が悪化の傾向に向かっているがゆえに、集合的な規模で知性が育まれていかない状態を生み出しているのではないかと思う。上記の操作された情報に対して自ら検証をしていく際に、知識を獲得していくことは有益だが、それは情報を自発的に検証しようとする態度がそもそもなければ話にならない。
自己及び自己を取り巻く世界に対して関心の目を向け、それを自らの感性と知性を持って検証していくという態度は、それを突き詰めて考えていけば、やはり幼少期の頃の教育に行き着くのではないかと最近よく思う。
それこそ、シュタイナー教育における魂の形成期において、いかに自己と自己を取り巻く世界と向き合ってきたかということが、将来成人になった時に、自分を取り巻く社会の諸々の問題に対して健全に関心を示すことを促すのではないかと思う。
夕食を摂りながら、そのようなことをずっと考えていた。我が国だけではないだろうが、多くの成人が示す自己を取り巻く世界への無関心という現状は、次の世代の知性を健全に育んでいくことによってその負の連鎖を断ち切ることができるのではないかと思う。
少しずつだが教育の重要性が自分なりに見えてきた。フローニンゲン:2018/8/19(日)19:54
No.1246:Autumn Afternoon
It repeats a clear and cloudy weather today. After lunch, I went to the university, and I received a diploma for my third master’s degree. Groningen, 15:37, Thursday, 9/20/2018