top of page

2568. 友人の演奏会に参加して


穏やかな風が吹いている。早朝のフローニンゲンの空には薄い雲がかかっていて、それがうろこ状に見える。うろこの隙間から早朝の太陽の光がわずかばかり差し込んでいる。

とても静かな早朝。昨夜は、友人のピアニストの演奏会に参加した。

街の中心部にある古書店から演奏会場の音楽院は近く、古書店の近くで夕食を食べてから音楽院に向かった。音楽院に到着すると、そこは改築されており、以前よりも随分と綺麗な建物になっていた。

建物の中に入ってみて驚いたが、設備全般が最新式のものになっていた。友人のピアニストからは、演奏ホールの場所はわかりやすいと聞いていたが、最初別の部屋に入ってしまっていたようだった。

綺麗な部屋だが、少しばかり狭いなと思っており、演奏開始時刻に近づいても誰も来なかったためおかしいと思い、部屋を出て、通りすがりの係員に尋ねた。どうやら私は間違った部屋にいたようだ。

演奏ホールは入り口から目と鼻の先にあり、黄色い壁が目印だと友人から聞いていたが、入り口から入って左手のその部屋の壁も黄色であったため間違えてしまったようだ。実際の会場は入り口から右手にあった。

演奏ホールの扉を開けると、それでもまだ誰も人がいなかった。とりあえず最前列の良い席を確保し、夕方に古書店で購入した書籍を読みながら演奏開始を待つことにした。しばらくすると会場をセッティングする人たちが現れ、観客も増えてきた。

今回の演奏会は、音楽院に所属している学士課程の生徒と修士課程の生徒の発表会として位置付けられている。最初に合唱曲から始まり、私は友人の演奏の順番を待った。

友人が演奏するのはプログラムのちょうど真ん中あたりであり、それまでは他の生徒たちの発表を聞いていた。普段はピアノ曲ばかりを聴いているためか、今回改めて他の楽器や人間の歌声を聴いてみると、いろいろと発見があった。

そうした発見を得ることに楽しみを覚え、他の生徒たちの演奏を聴いたところで友人の番になった。友人はメンデルスゾーンのピアノ三重奏を違うメンバーと二回演奏した。

特に最初の演奏には迫力があり、演奏が終わった後の観客の拍手がその日で一番大きかった。私は演奏の技術的なことに精通しているわけでは決してないのだが、それまでの他の演奏者の演奏と比べて確かに技術の差があることに気づいた。

観衆の拍手の大きさもそうした技術の差を示していたように思う。ここで言う技術というのは、単純な機械的な技巧というよりも、心を動かすような感情エネルギーを演奏の中に具現化させることのできる技巧を指す。

二回目の三重奏の方は、一回目とは異なる質を持った迫力があったように思う。ただし、どちらも聴衆の内側の感覚を刺激し、心を動かすようなエネルギーが込められていた。

こうした演奏を可能にする技術について私はしばらく考えさせられた。より正確には、こうした技術を磨く重要性について考えさせられていたのである。

とりわけ、自分が現在従事している作曲に関して、こうした技術を磨いていくことの大切さを改めて実感させられていた。とにかく日々の実践の中で小さな技術項目について意識的になり、数多くの仮説検証を通じて一つ一つの技術項目について技術を高めていく。

同時に、普段から音を聴く感覚のみならず、諸々の感覚を磨いていく必要性を強く感じている。微細な差異や質感を捉えられるようになる感性を育んでいくことが大切だ。フローニンゲン:2018/5/16(水)07:06

過去の曲の音源の保存先はこちらより(Youtube)

過去の曲の楽譜と音源の保存先はこちらより(MuseScore)

bottom of page