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1474. 一人の人間の一生


これから夕方に向かって時間が進んでいく。時計の針が午後の三時半を回った。今日は土曜日であり、いつも以上に辺りに行き交う人々の数が少ない。

家の目の前の道路を時折車が走り去り、時折通行人が行き来している。何か重要な気づきが喉まで出かかっているのだが、それが完全に外に出ない感覚が自分を包む。

次回日本に一時帰国する際には、数年ぶりに叔父に会おうと思う。よくよく考えてみると、身内の中で話をすることができる同性は、父と叔父しかいないことに気づいた。

二人の祖父が亡くなり、父と叔父は私にとってより一層大切な存在となった。これまで自分を大いに啓発してくれた存在として、父と叔父に対して今でも多大な尊敬の念を持っている。

次回の一時帰国の際に叔父と会うための連絡をしている際に、葛飾北斎の話題となった。この話題になったのは、次回の帰国の際に、ぜひともすみだ北斎美術館と国立西洋美術館での北斎展覧会に足を運びたいという自分の思いがあったからである。

二人のやり取りの中で、「世の中は広く、色んな人が色んな人生を送りながら死んでいく」という趣旨の叔父の言葉に立ち止まらざるをえなかった。オランダで生活を始めて以降、この人生が自分に伝えようとしている事柄、そして人生の自らの歩み方について、何か考えを巡らせなかった日は一日たりとも無いように思う。

一人の人間が生まれ、死んでいくまでの一つ一つの歩みとその全総体は、何か掛け替えの無い尊いものを内包しており、それについて考えるだけで心が震えるのだ。一人の人間が生誕から生涯の幕を閉じまでの歩みは、物語を超えた壮大な物語であり、それがいかに平凡なものに思えたとしても、それは平凡であるがゆえに非凡なのだ。

昨日、オランダ人の論文アドバイザーから暖かいメッセージをもらった。数週間前にノルウェーのベルゲンの街で、偶然に足を運んだスープ屋で働く女性から受けた暖かい言葉かけ。自分の深層にゆらゆらと沈んでいく印象的なやり取りは、枚挙にいとまがない。

自分とは異なる人生を歩く人たちが、自分の人生と重なり合う瞬間の不思議さ。いやむしろ、自分の人生は絶えず他者の人生と触れ合っており、自分の人生が孤立することは決してないのだという確かな感覚が静かに湧き上がる。

この人生の中で、一度でも自分の人生が他者の人生と重なり合わなかったことなどあるだろうか。そんなことは一度たりともなかっただろう。

そして、これからの人生においてもそのようなことは決して起こらないだろう。自己の人生が他者の人生と相即的に絶えず一体として存在しているという、この大きな抱擁感を他にどのように説明したらいいだろうか。

この感覚さえあれば、私はまた小さな一歩を進めていくことができるように思う。この一歩は、確かに自分の一歩だが、それは自分の人生における一歩として完結するものではない。

自らの小さな一歩が、他者の人生における一歩になるという事実。自分が一歩進むことによって、必ず世界のどこかの誰かが新たな一歩を踏み出してくれるという無上の連帯感。

この断ち切ることのできない強固な絆が、私を毎日前へ一歩進めてくれているのだ。自己の人生は自分の人生の中で完結することはなく、この人生が始まる前からすでに、幾千もの時代を遡った他者の人生と相即的に繋がっていたのである。

そして、この繋がりは未来永劫途切れることはないだろう。それこそが一人の人間の人生の本質なのだと思う。

シベリウスのピアノ曲がただ静かに書斎の中を流れていく。様々な人たちとの何気ないやり取りに関する思い出が、流れることなく人生という川そのものになっていく。

この川はあの川と繋がっており、全ての海と繋がっている。2017/8/26(土)

No.120: Life As a Scientist, Philosopher, and Composer I made a devout vow to live as a scientist, philosopher, and composer throughout my life to explore truth, goodness, and beauty respectively.

Such a way of living is realizable without any doubt; my feeling to imagine that kind of life looks like the cloudless crystal-clear sky.

It does not matter to me how much time it takes to explore the three realms of reality. All I wish is to continue the lifelong voyage to explore and integrate the three domains. Wednesday, 8/30/2017

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