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1318. 風土と自己


今朝は五時半過ぎに起床し、六時から仕事を開始した。午前十時を迎える段階で、すでに七本ほどの論文に目を通すことができ、今日は論文の読み込み作業が非常にはかどっている。

ここで一息つくために、コーヒーを飲みながら少しばかり文章を書き留めておきたいと思う。 昨日から、100時間弱に及ぶベートーヴェン全集を聴き始めた。これまで私はベートーヴェンの作品において、ピアノソナタ、ピアノ協奏曲、そして交響曲ぐらいしか聴いたことがなかった。

しかし、この全集に出会うことによって、ベートーヴェンが残した声楽曲に触れることができたことを有り難く思う。100時間弱にわたるベートーヴェンの一曲一曲を聴きながら、改めてベートーヴェンが積み上げていった仕事の重みを感じざるをえなかった。

一人の人間が、毎日自分のなすべき仕事に取り組み続け、日々小さな創造行為を続けていくとき、それは一つの巨大な創造物に結晶化されていく。午前中の私の行為が、そうした創造物に近づく一歩であることを願う。 昨日、フローニンゲンの街の中心部に位置する大学のメインキャンパスに向かって歩いている最中、文化的多様性に触れながら自己形成を図ってきた過去と現在の自分について少しばかり考えていた。振り返れば、日本で生まれてからも、日本の様々な地域で生活をしていたように思う。

また、日本を離れてからは、米国の様々な地域で生活をし、現在は欧州で生活を送っている。こうした文化的多様性に触れざるをえない生活を通して、随分と自分の思考や感覚、そして言葉が変容していったように思う。

どうやら、風土に根ざした思考や感覚、そして言葉のようなものがあるようなのだ。今の私は、オランダという風土に根ざした思考や感覚を持ってこの世界を生き、そして言葉を紡ぎ出している。

私の今この瞬間の思考・感覚・言葉は、日本の風土では生まれえないものであることに気づく。また、それらは他の国においても生まれえず、この場所でしか生まれないものなのだということに気づかされる。

そのように考えると、私は多様な文化圏で生活することを通じて、様々な風土の上で自らの思考・感覚・言葉を育んでいったのだということを知る。そして、今この瞬間の自己はオランダの風土と切っても切り離せないものであるがゆえに、風土愛のようなものが芽生えつつあることに気づいている。

そのようなことを考えながら、昨日私は大学のキャンパスに向かって歩いていた。この風土の上に成り立つ自己は、今この瞬間のものであり、それが今後の自己を形成する基礎となる。

オランダのこの地でしか生まれえない思考と感覚をつぶさに捉え、この地の風土に立脚した言葉を絶えず書き留めておきたいという気持ちを改めて持った。今の自分の言葉は、この土地でしか育まれないのだから。2017/7/18(火)

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