今日は午前中に、「成人発達とキャリアディベロップメント」のクラスに参加した。今日のクラスで取り上げる論文の発表を私が担当するという連絡を、担当教授から事前に受けていたため、自宅を出発する前に少しばかり自分のレジュメを読み返していた。
自宅を出発してみると、早朝の時間であるにもかかわらず、外の気温がずいぶんと暖かく感じられた。今日と同じぐらいの気温であれば、早朝から半袖で出掛けることができると思った。
道行く人を眺めていると、実際に半袖の人もちらほら見かけられた。私がフローニンゲンにやってきたのは昨年の八月であるため、春のこの時期のフローニンゲンを私はまだ経験したことがないということにふと気づいた。
キャンパスに向かう私の心境は、これ以上ないほどに何かで満たされていた。「満たされていた」という言葉は、その時の自分の心境を表すのにふさわしく、また今この瞬間の自分の心境を表すのにもふさわしい。
心の中が絶えず暖かいもので満たされながら、私は日々の生活を送ることができている。何と有り難いことだろうか。
その他に必要なことはないのではないかと思われるぐらい、フローニンゲンの春を過ごす私の内側は満たされている。キャンパスに向かって歩いている最中、昨夜の偶然について再び考えを巡らせていた。
人生が予期せぬ形で道を作ることについて、思いを巡らせていたのだ。二年後はもしかしたら再び米国で生活を始めているかもしれない、という可能性が昨夜突如として浮上した時、私の人生は見えない何かときっと繋がっているに違いないと思わずにはいられなかった。
私たちは、自分の内側の成熟や能力の成長そのものの姿を捉えることはできない。捉えることができるのは、成熟や成長を遂げた後に現れる現象に過ぎない。
言い換えると、成熟や成長そのものの生の姿を私たちは肉眼で見ることができず、また成熟や成長を促す力も目には見えない。それと同じような現象が、私たちの人生の形成過程の中に存在しているように思えるのだ。
以前から気にかかっていた米国のある大学が、現実味を帯びた形で私の眼の前に立ち現れたことは、私たちの人生を形成するそうした目には見えない力の働きのおかげなのだろう。 昨夜突如として現実味を帯びた可能性に向けて、今の私にできることを積み重ねていきたい。フローニンゲン大学で過ごす二年目において、サスキア・クネン教授には論文アドバイザーという立場ではなく、論文の共同執筆者としての立場で引き続きお世話になることになるだろう。
一年目の研究においては、私はまだダイナミックシステムアプローチの真髄を自分の研究の中に盛り込むことができなかった。それは、発達に関する理論モデルを自ら構築し、それをもとに数式モデルを構築し、コンピューターシミレーションを通じて数式モデルと理論モデルを検証していくということである。
まさに、クネン先生の大きな貢献の一つは、ダイナミックシステムアプローチが持つその一連の流れを発達研究に適用したことにある。非線形ダイナミクスやダイナミックシステム理論が発達科学の中で普及し始めている中において、数式モデルの構築とコンピューターシミレーションを用いてそれを検証するということは、多くの研究者が行っていることではない。
世界の研究者を見渡してみても、そうしたことを行っているのは一握りである。そのため、私はクネン先生からダイナミックシステムアプローチの真髄を会得したいと思う。
それこそが、そもそも私がフローニンゲン大学に来た最大の目的であった。初心を思い出さなければならない。
確かに、非線形ダイナミクスやダイナミックシステム理論の発想そのものが研究において有益であることは間違いない。しかし、それらを単なるメタファーとして捉えるのではなく、一年目の研究を元に自分で理論モデルを組み立てていきたい。
もしくは、既存の学習理論や発達理論の中にある私の関心を引く理論を取り上げ、それを数式モデルに変換し、変数の値が変化することによって、その理論が学習や成長にもたらす効果がどのように変化するのかを検証するという研究を行いたい。
いかなる学習理論や発達理論においても、それは理論として形骸化したものではなく、生身の人間の学習や発達を説明する際に生命力のようなものを持つと思うのだ。つまり、それらの理論で語られている内容は普遍的な法則に則ったものであったとしても、理論が適用される人の状態やその人を取り巻く文脈の変化によって、理論が開示する現象にも変化が生じるはずである。
数式モデルを構築し、変数と定数の操作により、場合分けや条件設定をすることによって、一つの理論が開示する学習や成長に対する多様な現象を検証したいと思う。
数式モデルの立案にせよ、コンピューターシミレーションの方法にせよ、それらは以前履修したクネン先生のコースを通じて学習済みであるが、それらを実際の研究に適用し、論文を執筆しなければ、ダイナミックシステムアプローチの真髄を体得することはできないだろう。
二年目から新たに始めるクネン先生との共同研究が今からとても楽しみである。2017/5/23