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1056.楽譜の到着と今後の研究へ向けて


昼食前にランニングを済ませ、自宅の前に戻ってきた時、隣の棟に住む老父婦が私に声をかけてきた。なにやら、私宛に郵便物が届いているとのことであった。

オランダでは、郵便物の受け取り主が不在の場合、近所の人がそれを受け取ることになっている。奥さんから郵便物を受け取った時、見た目の大きさから判断して、それがベートーヴェンのピアノソナタ全曲の楽譜であることがわかった。

私は、奥さんにお礼を述べ、自宅に戻ってすぐさま梱包を紐解いた。中身はやはりベートーヴェンの楽譜であった。

はるばるイギリスから届いた楽譜に私はしばらく見入っていた。文字どおり、ベートーヴェンが産み出した32曲のピアノソナタが全て収められているため、分量は700ページほどに及ぶ。

本の綴じ方もリング式だ。リングのおかげで、楽譜の開閉がとても楽だ。

私は早速、楽譜を書見台に乗せながら、ベートーヴェンのピアノソナタを聴いていた。楽譜を眺め、音符を追いかけながら曲を聴くことは、精聴につながり、それはこれまで漠然と聴いていた時とは違う発見を私にもたらした。

やはり、一つの楽曲は一枚の絵画作品なのだ、とつくづく思った。自分でも思わず笑いがこぼれたのは、いかんせん楽譜の読み方がわからないため、流れてくる音と目で追いかける楽譜が対応しないことだった。

それでも、私は小さく、それでいて凝縮された幸福感を感じながら、絵画的な楽譜を眺め、しばらく曲に聴き入っていた。楽譜の到着を持ってして、ベートーヴェンが残したピアノソナタ全曲を貫く非線形的な発達過程と、それらが一つの美的体系へと至るプロセスに関する研究に向けた材料の大部分が得られたと思った。

将来的には、ベートーヴェンの思想体系の発達と曲の美的体系の成熟とを関連付けた研究にも着手したい。直近は、非線形ダイナミクスの専門家であるラルフ・コックス教授から指導を受け、楽曲の非線形的発達過程を明らかする研究に着手する予定だ。

また、その研究と同時並行で、成人学習や成人発達に関する研究論文を執筆していくことを行っていく。論文アドバイザーのサスキア・クネン先生に引き続き師事し、修士論文をもとにそこから数本ほど査読付き論文を執筆していく。

フローニンゲン大学での二年目、三年目の生活のあり方をここでもう一度見つめ直したい。三年目は完全に研究だけに打ち込む時期にする予定なのだが、二年目はどうしてもカリキュラムに従っていく必要がある。

だが、コースワークの課題量がいかほどであっても、必ず毎日論文を書き進めていくという姿勢は譲れない。「人間発達」という意味が全く見えてこないのは、そして、その定義が自分の中にないのは、人間発達に関する真の探究が自分の中で進んでいないからに他ならない。

定義というのは辞書の中になどないのだ。定義は、その対象と真に向き合う仕事を推し進めていく中で、対象と真摯に向き合う自己から自ずと滲み出てくるものなのだ。

そこに向かうために不必要なものを生活の中から排除し、規律と克己の中で毎日を形づくっていきたい。そのように強く思う。2017/5/11

過去の曲の音源の保存先はこちらより(Youtube)

過去の曲の楽譜と音源の保存先はこちらより(MuseScore)

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