今日は、オランダの祝日であった。「国王の日」と呼ばれる祝日だそうだ。
今日がその日とはつゆ知らず、街の中心部にある古書店に行くために昼食後に自宅を出発した。自宅を出てみると、昼間にもかかわらず酔っ払った人たちが道を闊歩していた。
さらに、目に映る家々を眺めているとオランダ国旗が掲げられていた。そのあたりから今日はオランダにとって大事な祝日であることがわかり始めた。
街の中心部に近づくと、それは確信に変わった。人の数が通常とは比べ物にならないほど多く、通行人の何人かはオレンジ色に顔を塗っていたり、オレンジ色の衣装に身を包んでいた。
「あぁ、これがクネン先生が前に話していた国王の日というものか」ということに気づいた。 中心街の人混みをかき分けるようにして、古書店に到着した。行きつけのこの店に訪れたのは、店主から先日教えてもらった音楽配信サービスのSpotifyが大変優れたものであり、それを教えてくれたお礼を述べるためであり、さらには、先日購入を迷った、認識論者かつ発達心理学者のジャン・ピアジェの書籍 “Structuralism (1968)” を購入するためであった。
古書店のガラス越しに中を眺める通行人がおり、近寄ってみると、今日は古書店は休みであった。少しばかり残念な思いがしたが、街の中心部の盛り上がりを眺めることができたため、残念な思いがよぎったのは一瞬であった。近日中にまたこの古書店を訪れたい。 帰り道、行きつけのチーズ屋で一年発酵モノのオーガニックチーズをいつもより多めの量で購入した。この意思決定を促したのは、別にピアジェの “Structuralism (1968)” を購入できなかったことに対する当てつけではない。
チーズ屋の店主たちと祝日の盛り上がり具合について世間話を少ししたところで、店を後にした。自宅に到着すると、先日購入した、ハーマン・ハーケン教授の ”Information and Self-Organization: A Macroscopic Approach to Complex Systems (2006)”が予定よりも早めにイギリスから届けられた。
夕方からコーヒーを片手に、本書を早速読むことにした。実は、今日この書籍を読む予定はなく、今朝の予定では、カントの “Critique of Judgment (1790)”とジル・ドゥルーズの“Difference and Repetition (1968)”を読もうと思っていた。
しかし、ハーマン教授とザルツブルグでお会いしたことが影響してか、届けられたばかりのこの書籍を読むことにした。ハーマン教授は理論物理学であり、本書の中には難解な数式が相当数散りばめられている。
だが、それらの数式を除けば、記述的な説明は極めて明快であり、その内容に引き込まれるものがあった。私の中で、発達における「情報」をどのように定義し、どのように分析していくかに関心があったため、本書の内容は完全に私の関心に合致していた。
特に、本書の中で取り上げられていた「量子的情報」と「量子的エントロピー」という言葉が私の目を引いた。これらの概念を今後の自分の研究にどこまで活用することができるかを考えていたのだ。
そうした問いに対して、すぐに答えができることなど私は一切期待していなかった。その代わりに、問いがまた私に問い返すことを期待していたのである。
二時間ほど時間を充てて、全ての内容に一通り目を通した。いったん本書の内容を寝かせ、再び本書の記述的説明をいつか読み返し、その次には本書で取り上げられた数式と向き合うことになるだろう。
最も重要なことは、本書を読みながら立てた問いからの問い返しを待つことだ。2017/4/27