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983. 集合的な観点から個人の発達を捉えること


今日は午前中に、「成人発達とキャリアディベロップメント」という産業組織心理学のクラスに参加した。このコースのタイトル通り、クラスで取り上げられる内容は、私が専門としている発達心理学とも大きなつながりがあり、仕事を通じた人間発達という現象をまた違った観点から考えを深めることに非常に有益であると実感している。

また、私自身が仕事をする一人の人間であるがゆえに、このコースはキャリアディベロップメントという現象を自分に引きつけてさらに深く内省する素晴らしい機会を提供してくれる。仕事というのは、私たちの発達を促進する力を持っているのと同時に、阻害する力も持っている。

とりわけ、現代社会の仕事というのは、より多くの金銭を獲得することを目的としたものに還元されがちであるがゆえに、私たちの発達を阻害しているのではないかと思うことがよくある。この傾向は弱まるどころか、時代とともに深刻化しているように思えて仕方ない。

四月の初旬にウィーンとザルツブルグを訪れた時、私は、自分の分野の仕事を通じて己の精神を絶えず発達させていった偉人たちの姿を目の当たりにした。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、フロイトたちの生き様を語る資料が残された博物館を巡ることによって、人間は自らの仕事によって精神を限りなく高めていくことができることを知った。

私の強い関心は、自らの全てを捧げ、自分の使命と呼ぶにふさわしい仕事に打ち込み続けた人物たちが、己の仕事を通じて高めていった精神の発達過程にあるようなのだ。こうした関心事項は、産業組織心理学の範疇では探究できないのは承知だが、それでも今回履修しているコースからは大きな刺激を得ている。

このコースで扱われる文脈設定は企業組織なのだが、組織の中での個人の発達という見方よりも少し視点を上げて、社会の中での個人の発達について考察を深めるように意識している。ロシアの発達心理学者であるレフ・ヴィゴツキーが指摘するように、私たちは社会を通じて、そして、社会への関与を通じて発達していく。

逆に、社会というのは私たちの発達を阻害する働きも持っている。一昨年に東京に滞在していた時に突如として芽生えたテーマである、社会が人間発達にもたらす阻害要因とそのメカニズムについて、この機会にゆっくりと考えを深めたいと思う。

いかなる仕事も、それが組織に所属して行われるものであろうとなかろうと、社会と必ず結びついたものであるがゆえに、社会との関係性から仕事と人間発達を捉えていくことは非常に大切なことのように思える。

私自身の関心は依然として、個人の発達にあるのは間違いないが、社会との関係からそれを捉えようとする方向に向かいつつあるのを感じている。東京に滞在している最中に、社会心理学や社会学の専門書を購入していたのも、その予兆だと言える。

また、個人の発達現象を社会との関係性から捉えることの一環として、ダイナミックシステム理論やネットワーク理論へと私の関心を向かわせたように思えるのだ。いずれにせよ、フローニンゲン大学の一年目の最後の学期は、このように、人間発達を組織や社会との観点から捉え直し、二年目のさらなる探究につながるような時期だと位置付けたい。2017/4/25

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