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944. ベートーヴェンが曲に込めた法則性の探究に向けて


仕事を通じた発達というテーマが、私を強く捉えていることを感じる。早朝にそのテーマが自分の内側で浮上してきていることに光を当てると、不思議なほどにそのテーマが自発的に膨らんでいるのを実感している。

そうした様子を見るにつけ、少しばかり、そのテーマに対して自分の言葉を当てる必要があるだろう。仕事を通じた発達と一口に述べても、「発達」が対象とする領域は極めて広い。

おそらく、日本で知られている発達理論だけに囚われていると、発達という概念が指す現象は、自己認識を含めた自我の発達だけに限定されてしまうかもしれない。しかしながら、私が想定している仕事を通じた発達とは、より多様な発達領域を含んだものである。

とりわけ自我の発達だけを意識の発達と捉えてしまうことは大きな問題だと思う。人間の発達とは、自我の発達だけではなく、多様な発達領域があるということをもう一度思い返す必要があるだろう。

そのようなことを思いながら、昨日考えていたことをふと思い出した。一般的に研究者は、自分の論文がジャーナルに掲載されるまで、研究アイデアを広く公開するようなことはない。

実際には、信頼できる研究者の間だけでアイデアを公開することに留まるだろう。多くの研究者は、研究アイデアを公開するのを控える傾向にあるのかもしれないが、私はその点に関しては少し無頓着かもしれない。

実際にこれまで日記を通じて多くのアイデアを知らず知らず公開してきたことからも、研究が形になる前にアイデアを共有することにほとんど何らのためらいもないことがわかる。「創造性と組織のイノベーション」というコースの中で指摘されていたように、個人のアイデアというのは、どれも創造性に溢れるものでありながらガラクタでもある。

結局、何らかの分野に真に貢献するためには、そうしたアイデアを具現化させることが何より重要なのだ。アイデアの創出から始まり、アイデアの実行に至って初めて、個人や組織の創造性は形のあるものとしてこの世界に顕現するのだ。

そのようなことを考えてみたとき、アイデアを自分の内側で閉じておくというのはやはり馬鹿げたことのように私には思える。正直なところ、私が何らかの研究アイデアを書き留めて、それを見た他の研究者が自分よりも先に研究に着手してもいいと思うのだ。

研究の手柄や功績よりも、重要なことは、研究を通じて意味のある発見事項や面白い発見事項がもたらされ、当該研究分野の進展に寄与するか否かにあるのだと思う。自分のアイデアを別の誰かが実行にまで移してくれたのであれば、逆にそれはこちらとしても有り難いことだと思う。

昨夜の段階でふと新たに研究してみたいと思ったテーマがある。それは、ウィーンの訪問を通じて、自分の深層部分に深く入り込んだベートーヴェンの発達に関するものだ。

ベートーヴェンの内面世界の発達に直接踏み込むというよりも、今の私はベートーヴェンが残した音楽の外面的な発達に関心がある。特に、現在私が探究を深めている非線形ダイナミクスの手法を活用しながら、ベートーヴェンが残した曲にどのような法則性が潜んでいるのかを明らかにすることに関心があるのだ。

ベートーヴェンという偉大な作曲家は、おそらく相当意図的にかつ無意識的に、一つ一つの曲を自分なりのある法則性に基づいて生み出しているような気がしてならない。そうした法則性を単純に掴んでいくのではなく、ベートーヴェンの作曲家としてのキャリアの発達プロセスと合わせて掴んでいくのだ。

少しばかり調べてみると、ベートーヴェンが残したピアノソナタだけに絞ると、その曲数は32曲ほどである。最初にこの数字を目にした時、意外と少ない印象を私に与えた。

だが、モーツァルトはピアノソナタを18曲、ショパンは3曲ほどしか残していないことを考えると、ベートーヴェンが残した32曲は、ピアノソナタに限って言えば多いと言えるのかもしれない。この研究は、私が大学院で行っている研究とは別で行いたいものであり、純粋に私の個人的な探究心に基づくものである。

32曲ほどであれば、全ての曲に対して何らかの定量化を施し、「再帰定量化解析(RQA)」や「トレンド除去変動解析(DFA)」という非線形ダイナミクスの手法を用いて、ベートーヴェンが曲の中に宿した法則性を掴むことが可能だと思うのだ。

ただし、私は音楽教育を受けたことはないので、どのように定量化すれば良いのかを専門家に相談しながら、その方法についてもう少し考える必要があるだろう。例えば単純に、音の高低の序列を表す音階に着目し、各楽曲の中に現れる音階を順番に数字に変換していく。

そうして一つの楽曲に対して一つの時系列データを作成することができれば、そうした時系列データを分析する手法はRQAやDFAのみならず無数に存在するため、自分が明らかにしたいことに合わせて手法を選択すればいい。

例えば、音階の反復率や滞留率を明らかにするのであればRQAが有効だろうし、その楽曲がどのような変動性の種類を持っているのか——1/f揺らぎのようなピンクノイズを発しているのかなど——を調べるのであればDFAが最適だろう。

ベートーヴェンがキャリアの進展に合わせて、どのような法則性を曲に込めて行ったのかは、今の私にとって非常に気になるテーマである。それは、ベートーヴェンの内面世界の発達過程を明らかにする窓のように私には思え、同時にそれは自分の内面世界の発達過程を映す鏡のように思えるのだ。2017/4/15

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