「創造性と組織のイノベーション」のコースで取り上げられた論文を読みながら、創造性に関する発達段階モデルについて少しばかり思いを巡らせていた。この論文は、アムステルダムからウィーンに行く最中にも目を通しており、その時にもこの段階モデルが少々気になっていた。
以前書き留めていたように、産業組織心理学の文脈における創造性の発達モデルは、四つの段階を定義している。それは、創造性の初期の段階から順番に、mini-c, little-c, pro-c, Big-Cである。
創造性の発達を研究する分野において、これまでは、過去の偉人たちが発揮したようなBig-Cの創造性に着目するか、もしくは、一般の人たちがある特定領域の中で発揮する創造的な行為を生み出すmini-cという小さな創造性に着目するかのいずれかに研究の焦点が当てられていた。
つまり、既存の創造性研究の対象には偏りがあるということである。そこから現在は、mini-cの次に到達するlittle-cの創造性や、little-cからさらに発達したpro-cの創造性にも研究の光が当てられている。
ウィーンに向かう最中、そして今朝も改めて重要性を噛み締めていたのは、little-cの段階に該当する創造性である。これは高度な創造性を発揮するための種を見出していく重要な段階であり、一般の人たちでもこの段階の創造性を発揮していくことは十分に可能である。
この段階で発揮される創造性の特徴は、個人の内側の閃きや意味に尽きる。私たちは普段何気なく、様々な閃きや重要な意味を内側で生み出している。だが、私たちの多くはそれらと真剣に向き合うことをせず、結果として、貴重な閃きや重要な意味は跡形もなくどこかに消えていってしまう。
このような状態であれば、自らの創造性を養うことは決してできないのだ、という強い思いに旅の途中で掴まれた。自らの専門性を確立し、高度な能力が発揮できるようになるpro-cの段階に至るためには、何よりもまず、このlittle-cの段階を大切にしなければならない。
独自の体験や知見の相互作用によって生み出される、個人の内側にもたらされる閃きや意味ほど貴重なものはない。ただし、それらの存在に気づくだけでは全くもって不十分だ。
それらをいかに形として外側に表現するかが極めて重要であり、そうした外面化の過程がなければ、little-cの創造性は一生育まれることはないと言えるだろう。私が内側の思念や感覚を絶えず文章の形にしようと思ったことの裏側には、何かそのような事実と関係しているように思えて仕方ない。
今この瞬間に言葉となって現れた、自分の内側の閃きや意味を眺めていると、確かにそれは、私という一人の人間が産み出した小さな創造性だと言えることに気づく。
今回の旅でもたらされた諸々の体験に少しずつ言葉を与えることを行いたい。それらに言葉を与えることによって初めて、それらは生命を持った形で外側の世界に姿を現わす。
そして、生命を持った内側の閃きや意味は、新たな創造性を導いていく。そうした過程を経ることによって、私たちの創造性はゆっくりと発達していくのだろう。 今回のオーストリアの旅を終え、またしばらくはフローニンゲンで日々の探究活動に打ち込みたいと思う。可能であれば六月末にハンガリーのブダペスト、七月末か八月にノルウェーに足を運びたい。
当初の予定では、この夏にギリシャとエジプトへ行く予定だったが、それらの場所がまだ自分を強く呼んでいない。ブダペストとノルウェーでは、それぞれの地にまた一週間ほどゆっくりと滞在したいと思う。
その日に向かって今日から再び歩き出したい。2017/4/12