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895.焦点を絞った探究活動


昨日は、論文アドバイザーのサスキア・クネン先生とのミーティングがあった。「創造性と組織のイノベーション」の最終回のクラスが終わった後、少しばかり大学図書館で時間を潰し、クネン先生の研究室へ向かった。

いつもは、先生とのミーティングを月曜日の午前中に行うのだが、先日の日記で書き留めていたように、今回のミーティングは普段と異なり、木曜日の午後に行われることになった。ミーティングの時間帯を変更する際に、クネン先生と笑いながら、「これはダイナミックシステムの移行期間における現象と同じだ」ということを話していた。

先生の研究室に到着すると、部屋のドアが開いており、ドアノブに布が巻き付けられていた。先生曰く、春の風が通り抜けれるようにドアを開け、時折勝手に閉まるドアの衝撃を和らげるために、ドアノブに布を巻きつけたそうだ。

先生の研究室の椅子に腰掛けながら、窓越しに見える春めいた景色を少しばかり眺めていた。いきなり本題に入るのではなく、いつものように雑談から今日のミーティングも始まった。

最初に私の方から、五月にフローニンゲンの街で開催することになった、アイデンティティ研究の学会に招待してもらったことに対してお礼を述べた。クネン先生曰く、この学会は二年に一度開かれるものであり、これまではずっとアメリカで開催していたそうだ。

ヨーロッパで開催するのは今回が初めてであり、アイデンティティ研究の大家でもあるクネン先生が今回の学会を主にオーガナイズしていくことになったそうだ。現在取り組んでいる研究自体は、アイデンティティの発達と関係ないものだが、私の中には絶えず、アイデンティティの発達に対する関心がある。

実際に、エリクソン、ロヴィンジャー、コールバーグ、キーガンなど、アイデンティティの発達に関する研究に従事していた研究者から私は多大な影響を受けている。また、毎日の生活の中で、自分の諸々のアイデンティティについて考えることを余儀なくされている状況に置かれている。

そうしたこともあり、私にとって、アイデンティティの発達という現象は依然として大変興味深いテーマなのだ。学会に関する雑談をした後に、本題である私の論文について話が移った。

今回は、教師と学習者間のシンクロナイゼーションを分析するための、「交差再帰定量化解析(CRQA)」という非線形ダイナミクスの一手法を取り上げた箇所についてフィードバックをもらった。クネン先生曰く、先生自身は、ダイナミックシステムアプローチを用いた数式モデルの構築とシミレーション技術に精通しているのだが、非線形ダイナミクスの手法についてはそれほど精通していないとのことであった。

以前履修した「複雑性と人間発達」のコースでは、ダイナミックシステムアプローチに関してはクネン先生が講義を担当し、非線形ダイナミクスに関してはラルフ・コックス教授が講義を担当していた。そのような分担からもわかるように、クネン先生は、今回の私の論文で取り上げる「交差再帰定量化解析」についてはあまり馴染みがないということがわかった。

前回のミーティングで取り上げた「状態空間グリッド」という手法は、非線形ダイナミクスというよりも、むしろダイナミックシステムアプローチに属している。そのため、先日のミーティングでは、専門家としての意見を先生からもらうことができた。

一方、今回はある意味で、非専門家としての立場から、新鮮な目で私が執筆した文章を読んでもらうことができたのだ。後ほどすぐに実感することになったのだが、非専門家としての立場から繰り出される先生の質問は、どれも簡潔ながらも、その場ですぐに回答ができないようなものばかりであった。

新鮮な目で対象を眺め、そこから生まれる素朴な質問というのは、本質をえぐり出すような力を秘めていることを改めて思い知らされた。今、クネン先生のことを非線形ダイナミクスの非専門家として位置付けていたが、何を隠そう、私自身もこの領域に本格的に参入してから半年ほどしか経っていない。

これはクネン先生やコックス教授からのお世辞として受け取っているが、非線形ダイナミクスの諸々の手法を発達研究に取り入れていくのは、修士論文ではなく、博士論文の世界だそうだ。非常に短期間の間に、集中的に非線形ダイナミクスの理論や手法を学ぶことによって、研究で活用できる最低限の知識を獲得することができたのは確かである。

だが依然として、その知識体系は高度なものではなく、土台ですらも時にぐらつくことがある。昨日のミーティングでクネン先生からのシンプルな問いに即座に回答できなかったのは、そうした土台の知識がまだ確固たるものではないことを如実に示しているだろう。

昨夜も少しばかり思いを巡らせていたのであるが、非線形ダイナミクスという大海に焦点を絞らぬまま乗り出すのではなく、自分の研究で活用した手法に関する背景理論に絞っていくことが賢い方法のように思えた。

今回の研究で言えば、「交差再帰定量化解析(CRQA)」とその母体になっている「再帰定量化解析(RQA)」に絞って、その背景理論と諸々の概念を押させていきたいと思う。CRQAとRQAに関する論文は、手元に20本ほどあり、関連する専門書も何冊か手元にある。

そのため、これからしばらくの間は、それらの論文と専門書を丹念に読み込み、少なくともCRQAとRQAに関しては確固たる知識体系を構築したいと思う。2017/3/31

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