昨日は、結局就寝の直前まで自分の研究を進めていた。研究にのめり込んでいたため、これは仕方のないことであった。
というのも、研究で用いる「状態空間グリッド(SSG)」に関して最後の山場を無事に越えた瞬間が昨夜に訪れたため、その手を止めることができなかったのだ。具体的には、教師と学習者間の行動パターンを一つのシステムとみなした時、その挙動が示すアトラクターの特定に関して難所を乗り越えることができた。
この難所は、そもそも、 “Results”のセクションを最初に執筆していた時に自分の中で湧き上がっていた疑問と関係している。また、論文アドバイザーのサスキア・クネン先生からも私と同様の疑問が投げかけられ、その問題を解決しなければならなかった。
その問題とは、端的に述べると、SSGというソフトウェアを活用し、グリッド図を出力した後に、どのようにしてある地点がアトラクターだと認定するのか、というものだ。アトラクターの強さに関しては、SSGが出力する様々な指標を活用しながら算出できるのだが、そもそもアトラクターをどのように検出するかという明確な基準というものが私の初稿には記載されていなかった。
当初は、出力されたグリッド図を眺めることによって、システムが最も頻繁に訪れる地点をアトラクターだと視覚的に認定する方向で文書を執筆していた。しかし、それでは客観性に欠けるため、明確な基準を持ってして、アトラクターを選定していく必要があった。
あれこれと文献調査をしていると、SSGの領域を開拓したマーク・レヴィスの “A new dynamic systems method for the analysis of early socioemotional development (1999)”とトム・ホルンシュタインの “State space grids (2013)”の中に、アトラクターを選定していく手順が詳細に記載されているのを発見した。
最初にこの箇所を一読した時、その内容を即座に把握することはできなかった。だが、ゆっくりと何度も読み返しているうちに、ようやくその意味を掴むことができたのだ。
それが昨日の夕方から夜にかけてのことだった。その手順に一つずつ従って分析を進めた結果、見事にアトラクターを特定できた時、私は喜びの中にいた。
湧き上がる喜びを感じるのではなく、喜びそのものの中にいたのだ。それゆえに、普段の就寝時間を超える形で研究にのめり込んでしまっていたのだ。発見されたアトラクターの種類とそれを発見した手順について、忘れないうちに書き留めておきたい。 SSGを活用したアトラクターの選定手順はいくつかの流れがある。まずは、出力されたグリッド図を眺めながら、対象とするシステムが二回以上ある地点に訪れた箇所を特定していく。
この時、ある地点に滞在した時間の長さを基準にすることもできるが、別の方法としてある地点に到達した回数を基準にすることもできる。アトラクターはそもそも、システムをある地点に引き込む力を持っているため、システムがそこに訪れる時間間隔が短く、そこを訪れる回数が必然的に多くなるのだ。
そうした特性を踏まえ、時間を基準にするか訪問回数を基準にするかを選ぶことができる。自分の論文のその他の箇所との兼ね合いから、私は訪問回数を基準に選んだ。
このように、二回以上訪れた地点を手作業で拾っていくと、今回の私の研究で調査対象となった特定のクラスには、8個ほどのアトラクター候補があった。ここで注意が必要なのは、システムが二回以上訪れた地点を直ちにアトラクターとみなすことはできない、ということだ。
なぜなら、それは確率的に偶然その地点を二回以上訪れたかもしれないため、あくまでもそれらの地点は、この段階ではまだアトラクター候補なのだ。アトラクター候補を検出した後には、振り分け作業(winnowing procedure)を適用する。
これは、簡単な統計的な処理によって実行される。細かな操作については説明を省略するが、一言で述べれば、その地点を訪れる期待値を算出し、それと実際の値を比較していく。
こうした作業の結果、「異質性スコア(heterogeneity score)」を算出することができ、それを基準にアトラクター候補を振るい分けていく。その結果として残ったものが、晴れてアトラクターとして認定されることになる。
こうした手順を一つ一つ辿りながら、今回の私の研究対象となっているオンラインコースを分析していった。特に、分析の過程で第二回目と第五回目のクラスに焦点を当てる流れになっており、アトラクターの特定を行ってみたところ、大変興味深いことがわかった。
第二回目のクラスには、アトラクターが三つあり、教師と学習者の振る舞いが構築するシステムは、それら三つのアトラクターを行ったり来たりしていたのだ。つまり、これは「リミットサイクル」と呼ばれるアトラクターの種類に該当する。
一方、第五回目のクラスには、アトラクターは一つしかなく、これは「ポイントアトラクター」と呼ばれるものに該当する。これまではグリッド図を眺めながら、視覚的にアトラクター候補を指摘することにとどまっていたが、上記のような統計的な処理を経てみると、客観的にアトラクターを特定することができる。
発見されたアトラクターの種類について、それが意味することに関しては “Discussion”のセクションで議論したいと思う。アトラクターの種類を説得力を持たせる形で特定できたことは、私を研究にのめり込ませるには十分であった。2017/3/30