起床直後から、柔らかい光を放つ朝日を拝むことができた。窓を開けると、清々しい風が部屋に入り込んできた。
季節は完全に春のようだ。今日の午前中はまず、システム科学とネットワーク科学の専門書に取り掛かった。
前者に関しては、システムの制御に関係するサイバネティクスの章を読み進めた。この章を読みながら、「情報」という概念は、システム科学において避けて通れないものであり、機械的なシステムであろうと人間の心のようなシステムであろうと、情報の性質とそれがシステムとどのような関係を結んでいるのかを理解することは不可欠だろう。
また、後者に関しては、いよいよ残すところ、あと一章となった。明日、最終章を読めば、このテキストをとりあえず一読したことになる。そこからは、繰り返しこのテキストに目を通すことになるだろう。
本日目を通していたのは、ネットワークをコミュニティーの観点から捉える章である。冒頭に、ベルギーという国が持つオランダ語とフランス語の二つの言語コミュニティーの具体例が挙がっており、非常に身近に感じる話題であった。
大きなハブが一つのネットワークを構成し、別の大きなハブが一つのネットワークを構成する時、それらのネットワークには重なる部分が出てくる。今朝目を通していた章では、そうした重なりをどのように扱うのか、それらをどのように定量化していくのかという手法が紹介されていた。
私は、ネットワーク科学の概念や研究手法を将来的に活用したいと思っているだけであり、今のところ、それらをすぐに研究に活用しようという思いはそれほど強くない。また、人間の知性や能力が発達する現象をどのようにしてネットワークとして捉えていくのか、それらの構成要素をどのように特定していくのかについては、絶えず関心を持ちながら、日々緩やかに考えを巡らせている。
この専門書を読み終えたら、再度簡単に全体を読み直したい。その後、ネットワーク科学専用のクリアファイルにしまっている数本の論文に目を通し、ネットワーク科学が持つ発達研究への応用可能性をさらに探っていきたいと思っている。 午前中は、このようにシステム科学とネットワーク科学の文献調査に時間を全て注いでいた。その後、このような快晴の日に外に出かけなければいつ出かけるのだ、という気持ちに後押しされ、ノーダープラントソン公園へランニングに出かけた。
実は、私が気に入っているランニングコースは二つあり、それはノーダープラントソン公園を走るコースと、もう一つは、フローニンゲン大学のザーニクキャンパスにつながっている、近くの河川沿いのサイクリングロードを走るコースだ。
その日の気分や体調に応じてコースを変えるよりも、午前中の仕事がどの時間に終えることができたのかによって、私は走るコースを変えている。目を通していたシステム科学の専門書の章が、非常に分量の多い箇所であり、ネットワーク科学の専門書の章を読み終えた時、15分ほどいつもの時間を超えていた。
そのため、距離的に短いノーダープラントソン公園を今日は走ることにした。時間帯は、月曜日のお昼前であったが、犬の散歩をしに来ている人が多く見かけられた。
また、公園の一角で、一人の年配の男性が絵を描いているのを発見し、思わず走る足を止め、近づいてその絵を後ろから眺めていた。公園の池、そして池の周りに咲く紫色の花々が美しく描かれていた。
その絵の印象を抱えながら、私は再び走り始めた。すると、現在午前中に取り掛かっている二つの専門書を読み終えたら、もう一度簡単にそれらの書籍を読み直すことと並行して、非線形時系列データの分析に関する専門書を読みたいと思った。
特に、数週間前に一読していた “Nonliner time series analysis (2000)”をもう一度最初からゆっくりと読み進めたいと思ったのだ。現在の研究で用いている「交差再帰定量化解析」にせよ、当初研究で活用する予定であった「トレンド除去変動解析」にせよ、それらは非線形ダイナミクスの手法の一つであり、非線形時系列データの分析手法だと言い換えることができる。
そのため、非線形時系列データの考え方や技法に習熟することは、今の私にとって最も優先させるべきことなのだということに改めて気づいた。システム科学の概念や理論をゆっくりと深めながら、同時に、ネットワーク科学の応用可能性について模索をし、それらと並行して、非線形時系列データの解析理論とその手法について理解を深めていきたい。
そのような思いがランニングの最中に湧き上がってきた。公園に降り注ぐ春の陽気を感じながら、私は幸福な気持ちになった。
いつもと違う幸福感を探すとするならば、それは、発達心理学に多大な功績を残したジャン・ピアジェの夢の続きを、自分が歩んでいるという感覚だろう。ピアジェは、人間の発達に関して極めて鋭い視点を持っていた。
というのも、人間の心を機械のようなシステムとしてみなすのではなく、生態系としてみなしていたからだ。だが、ピアジェが生きていた当時において、人間の心を生態系とみなした場合に、それを研究する方法が心理学の世界にはなかったのだ。
幸いにも現在は、複雑性科学の進展とその発展が発達心理学の世界にも取り入れられ始めているため、人間の心を生態系とみなした研究が十分に行えるような状況にあるのだ。それを可能にしたのは、まさに非線形ダイナミクスの手法であり、非線形時系列データ解析の進展だと言えるだろう。
ピアジェという巨人の夢に包まれながら、午後からの仕事に励みたいと思う。2017/3/28