先ほど無事に、「創造性と組織のイノベーション」のコースで課されている、グループ共同論文の最初のドラフトをメンバーと一緒に担当教授に提出した。この課題に取り組むにあたって、産業組織心理学を専攻しているルクセンブルク人のヤンとドイツ人のマーヴィンに随分と助けられたように思う。
ヤンの論文アドバイザーを務めているのが、ちょうどこのコースを担当しているエリク・リーツシェル教授ということもあり、このコースに対するヤンのモチベーションは非常に高かったように思う。
また、マーヴィンも、産業組織心理学の修士号を取得した後、すぐに企業社会で職を得るのではなく、今度は経営学の修士号を取得することになっており、関心領域と合致している今回のコースに対する彼のモチベーションも高かったように思える。
私も今回のコースの内容を非常に面白いと感じているが、私の関心は経営学的な観点から人や組織の発達を探究するのではなく、やはり発達心理学の観点から人や組織の発達を探究することに関心があるため、彼らに比べれば、自分のモチベーションはそれほど高くなかったように思う。
モチベーションというのは、どのような知識領域においても技術領域においても、自分の知識や技術の発達を促す極めて重要な潤滑油であることを改めて痛感する。そして、モチベーションという感情が芽生えてくる領域は各人異なり、どのような領域に対してモチベーションを持つのかというのは、個性の表れでもあり、才能の表れでもあると思うのだ。
ヤンとマーヴィンの働きによって、私は他の二つの論文の執筆に集中することができた。一つは修士論文であり、もう一つは「複雑性とタレントディベロップメント」のコースで課せられている二人一組の共同論文だ。どちらも共に、三月中に完成の目処が立つだろう。 クラスから帰宅後、少し自宅でくつろぎたいという気持ちになった。専門書や学術論文を読のではなく、心を落ち着かせるような文章を読みたいと思った。
ここ数週間は特に、毎日自分の専門に関係する論文や書籍に目を通しては文章を執筆するということが続いており、和書に一切触れることがなかったことに気づいた。久しぶりに、自分の内側に染み渡るような日本語を読みたいと思う。
日本語と言っても、現在の自宅の書斎の本棚には、森有正先生、井筒俊彦先生、辻邦生先生の全集ぐらいしかない。逆に言えば、異国の地で生活する上で、心を落ち着かせ、なおかつ励ましを私にもたらしてくれるのは、彼ら三名が残した和書で十分だと言える。
書斎の本棚を眺めた結果、手に取ったのは、辻先生の日記だった。今日は就寝を迎えるまでの時間、辻先生の日記を読み耽ることを自分に許容してもいいのではないかと思う。
書斎の音楽をより静かなものに変え、今からこの日記をゆっくりと読み進めたいと思う。2017/3/23