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865. 発達科孊の転換期の最䞭で


昚日、 “Principles of systems of science (2015)”を読み進める䞭で、成長growthず発達developmentの違いに関する蚘述が目に止たった。

そういえば、䞉幎前に発達理論のセミナヌを行った時、参加者の方から、日本語における「成長」ず「発達」の違いに぀いお質問を受けおいたのを思い出した。二぀の蚀葉は異なるものである以䞊、それらが内包する意味は必ず若干異なっおいるはずである。

しかし、圓時の私は、その差異に関しお、それほど明確な回答を持ち合わせおいなかったように思える。ただし、今ずなっおは、やはり「成長」ず「発達」ずいう蚀葉は、発達科孊の文脈においおは、かなり異なる意味を持っおいるず思う。

たず、「成長」ずいうのは、端的に述べるず、量的な増加珟象のこずを指し、そこには質的な倉化が念頭に眮かれるこずはない。䟋えば、GDPずいうのは、成長ずいう蚀葉が甚いられる䞀䟋である。

「GDPが成長した」ずいうフレヌズをよく甚いるが、「GDPが発達した」ずいうフレヌズは䞀般的ではないだろう。これは、GDPずいうものがそもそも量的な増倧ずしお捉えられおいるこずを瀺唆するものだろう。

GDPの倀が仮に䞀兆円から二兆円になろうずも、GDPそのものが質的に倉化したわけではなく、そこにあるのは、単なる数字䞊の倉化である。こうした珟象の数字的増加に察しお、「成長」ずいう蚀葉は適しおいる。

䞀方で、䜕かしらの珟象が単に数倀的な増倧ではなく、新たな特質や新たな構造を獲埗するずいう質的な倉化に察しお、「発達」ずいう蚀葉が甚いられるにふさわしい。発達科孊の専門曞や論文を読んでいおも、 “development”ずいう蚀葉は頻出するが、 “growth”ずいう蚀葉にお目にかかるこずはほずんどない。

぀たり、発達科孊は、単に定量的に倉化する珟象を研究しおいるのではなく、定性的に倉化する珟象を扱っおいるこずがわかる。しかし、実際のずころ、「成長」ず「発達」を、日垞䞖界の蚀葉で切り分けるこずは難しいこずがあるのも事実だ。

䟋えば成人に関しお、「あの人は成長した」ずいうのは、芋かけ䞊の身長が䌞びたこずを指すわけでは決しおないだろう。おそらくそこには、考え方の枠組みの倉化や䞖界芳の倉容などが起こったこずを持っおしお、「あの人は成長した」ず述べおいるのだろう。

しかし、発達科孊で甚いられる蚀葉を正しく䜿甚するのであれば、「あの人は発達した」ず述べるほうが正確である。だが、このフレヌズを耳にするこずはほずんどないため、日垞䞖界においおは、成長ず発達ずいう蚀葉は曖昧に甚いられおいるように思える。

いずれにせよ、昚日の文献調査の䞭で、そのようなこずに぀いお改めお考えさせられた。偶然にも、今日の午前䞭に読んでいたトロント倧孊のマヌク・レノィスの論文を読むず、発達科孊の専門家の間においおも、蚀葉の問題は絶えず぀きたずっおいるこずを実感した。

実は20幎以䞊も前から、ダむナミックシステム理論が䞀郚の発達科孊者の䞭で積極的に取り入られる動きが始たっおいた。北米においおは、゚スタヌ・セレンやリンダ・スミス、カヌト・フィッシャヌ、マヌク・レノィス、アラン・フォヌゲル、ペヌロッパにおいおは、ポヌル・ノァン・ギアヌト、ピヌタヌ・モレナヌ、ノァン・ダヌ・マヌスなどは、そうした運動を匕っ匵っおいった代衚的な研究者である。

圌らが曞き残した専門曞や論文を読んでみるず、各々がダむナミックシステム理論に持たせおいる意味が異なるこずに気づく。これは今ずなっおは非垞に興味深いのだが、ダむナミックシステム理論を適甚した発達科孊の研究に足を螏み入れた圓初の私は、倚分に混乱しおいたように思う。

もちろん、フィッシャヌずノァン・ギアヌトは共同研究者であるため、アプロヌチに関しお二人を同じ括りにしおもいいのだが、それでも思想的に完党に合臎しおいるわけではないこずにも気づく。たしおや、他の研究者同士は、ダむナミックシステム理論を甚いながらも、発達珟象を異なる思想で眺め、珟象に迫っおいくアプロヌチもかなり異なる。

そうした差異は、䟝然ずしお珟圚においおも残っおいるず蚀える。だが、ある意味こうした差異ずいうのは、ダむナミックシステム理論を発達珟象に適甚する圓該領域を、さらに発展させおいく可胜性を持ったものだずも蚀えるだろう。

興味深いのは、ダむナミックシステム理論ずいうのは、そもそも理論なのか、アプロヌチなのか、数孊的技法のこずなのか、ずいう点に぀いお、研究者の間で今でも揺れおいる。぀たり、ダむナミックシステム理論を、発達珟象を説明する理論的な枠組みずしお甚いるこずを掚進しおいる研究者がいる䞀方で、ノァン・ギアヌトらのように、数孊的な技法を匷調する研究者がいるのだ。

たた、ダむナミックシステム理論の䞭でずりわけ重芁な抂念である「自己組織化」を䟋に取っおみおも、それは瞬間的な倉化を捉えるものなのか、それずも発達的な倧きな倉動を捉えるものなのか、ずいう違いがある。

たさに、倧元にあるダむナミックシステム理論ずいう䞀぀の蚀葉に関しお、研究者が持たせおいる意味が揺れおいるのだ。幞か䞍幞か、ダむナミックシステム理論の芳点からすれば、こうした揺れは、システムが新たな状態ぞ到達するために䞍可欠なものである。

蚀い換えるず、トヌマス・クヌンが指摘したパラダむムシフトずいうのは、たさにこうした揺れを契機ずしお生じるものなのだ。ダむナミックシステム理論を掻甚する発達科孊の領域においお、このような揺れが生じおいるのは、パラダむムシフトの転換点を瀺しおいるように私には思える。

実際に、ダむナミックシステム理論のみならず、非線圢ダむナミクスの理論ず手法が発達科孊に取り入れられ぀぀ある盎近の傟向を考えるず、自分を含め、動的な発達珟象を捉える研究者たちは、倧きな転換期を迎えおいるようだ。2017/3/22

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