今日の天気は、雨雲が空に留まり続けているのみならず、気温も低い。そういえば、春の始まりを予感させる数日前に、行きつけのチーズ屋に立ち寄った際のことをふと思い出した。
そのチーズ屋を切り盛りする二人の店主とは大変仲が良くなり、先日も立ち話を少しほどしていた。その日はとても暖かい一日であったため、フローニンゲンの街にもようやく春が近づいていることを私が指摘すると、その日に店を切り盛りしていた一人の店主も同意していた。
だが、その日の暖かさは、今の季節には珍しいということをその店主から聞いていた。店主の述べた通り、そうした珍しい一日は過去のものとなり、今日の気温はまた低くなっている。
そうした寒さの中、今日は外出することもなく、自分の仕事に取り組んでいた。午前中にまず取りかかったのは、二つのシステムのシンクロナイゼーションの度合いを分析する「交差再帰定量化解析」という手法に関する論文だった。
その論文は、過去に二度ほど目を通していたのだが、自分の研究を進める過程で湧いてきた課題意識が強くある今の状態で目を通すと、非常に多くの発見があった。その論文は、子供のジェスチャーとスピーチのシンクロナイゼーションの関係を探り、シンクロナイゼーションの度合いと認知的発達の関係を調査している。
一般的に、「シンクロナイゼーション」という言葉の響きは、肯定的なものかもしれない。だが、興味深いことに、言語を獲得してまだ間もない子供達が新たなことを学習し、認知的な発達が起こる際には、往々にしてジェスチャーとスピーチはミスマッチを起こすということが解明されつつあるようだ。
その調査結果を見たとき、一つのシステムを構成する二つの要素(二つのサブシステム)のミスマッチという現象は、私たち成人の発達においても重要なように思われた。全体として一つのシステムが発達をする際に、システム内のエントロピーが一時的に増大することを以前紹介していたように思う。
システム内でエントロピーが増加するためには、システムの構成要素が柔軟に動けるということは一つ重要な条件だろう。ここから、二つ(あるいは二つ以上の)の構成要素は強固に連動しているのではなく、緩やかに連動しているということは、エントロピーが増加するために必要なことだと思われる。
要するに、二つの要素のシンクロナイゼーションの度合いが強すぎるというのは、エントロピーの増大を妨げてしまい、全体としてのシステムの発達を妨げてしまう可能性があるのだ。これまでの私は研究過程の中で、シンクロナイゼーションの度合いが高いことを肯定的に受け取るような思考があったことは間違いない。
だが、その思考を再考する必要があるだろう。もちろん、二つのサブシステムがシンクロナイゼーションを起こしているという現象そのものは、とても興味深いことである。
しかし、システムがより一段高度な段階に到達するためには、高いシンクロナイゼーションの度合いよりも、低いシンクロナイゼーションの度合い(高いミスマッチの度合い)の方が重要だという可能性があることを忘れてはらないだろう。 そうした考え方が芽生え、私は、自分の内側のサブシステムのカップリング度合いについて観察を始めることにした。どのサブシステムとどのサブシステムのカップリング度合いが強いのかを観察し、全体としてのシステムがより柔軟に動けるような介入を行ってみたいと思う。
ここからしばらくの間、高度な能力はカップリング構造の絶え間ない変化によって生じるかもしれない、という仮説を自分の内側を対象にして検証してみたい。2017/3/18