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839. ダイナミックシステムに関する理論モデルの構築について


夕食後、ノートを書斎の机に広げながら、“Principles of Systems Science (2015)”を読み進めていると、非常に残念なことが起こった。

昨日の「複雑性とタレントディベロップメント」のクラスで、ルート・ハータイ教授のレクチャーによって、自ずと湧いてきた問いが呆気なく解答できてしまったのだ。この問いは、今後しばらく寝かせておき、解答を思い浮かぶ日が来るまで辛抱強く待っておこうと思っていたのだが、その必要はもはや無くなってしまった。

ちょうど月曜日に、私の論文アドバイザーであるサスキア・クネン教授とのミーティングがある。今日は木曜日だが、今からそのミーティングで先生にあれこれディスカッションしたい内容について考えていた。

その一つとして、ダイナミックシステムアプローチに造詣の深いクネン先生に、昨日閃いた問いについて尋ねてみたいと思っていたのだ。その問いをどのような形でクネン先生に説明するかを、ノートに図示しながら、独り言を呟くように自ら説明していると、その過程でその問いが解けてしまったのだ。

その問いとは、もう一度改めて書き留めておくと、システムを構成する二つの要素の関係性が、時の経過に応じて変動する場合、それをどのように理論モデルにするか、というものであった。これがなぜ重要かというとと、一つには、システムの構成要素の関係性は、時の変化に応じて変わりうるからである。

もう一つには、そうした現象を理論モデルにできなければ、数式モデルに変換することができず、ダイナミックシステムアプローチの一つの強みである、数式モデルに対してコンピューターシミレーションを活用することができないからだ。

これら二つの点において、時間の経過に応じて、システムの要素間の関係が変わる現象をいかに理論モデルとして構築していくかはとても大切だ。 システムを構成する二つの要素の関係については、以下のものがあることを紹介していたように思う。 1:要素Aが要素Bに対して、正の影響を与える。 2:要素Aが要素Bに対して、負の影響を与える。 3:要素Bが要素Aに対して、正の影響を与える。 4:要素Bが要素Aに対して、負の影響を与える。 5:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AはBに正の影響を与え、BはAに負の影響を与える。 6:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AはBに負の影響を与え、BはAに正の影響を与える。 7:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AとBがお互いに正の影響を与える。 8:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AとBがお互いに負の影響を与える。 実際のところ、人間の発達現象を探究する際に、時の変動に応じて、システムを構成する要素がそれら八つの関係性をめまぐるしく変化させていることはあまり多くないだろう。

例えば、八つの関係性を便宜上、それぞれ上から「1」「2」・・・・「8」とコーディングすると、時間tの時に1を示し、時間t+1の時に2を示し、時間t+2の時に3を示し、時間t+3の時に再び1を示し、同様のサイクルが続くようなケースを目にすることはあるだろう。

仮に対象とする現象が、「1, 2, 3」「1, 2, 3」のサイクルを持つという理論的な仮説を立てることができれば、これはもはや理論モデルを構築できたことを意味し、その関係性を数式モデルに変換することは比較的容易だろう。

これは、「1, 2」のサイクルが続こうが、「3, 6, 8, 1」のサイクルが続こうが、「1, 3, 2, 7, 2, 5」のサイクルが続こうが、話は全て同じであり、理論モデルを構築することができてしまうことに気づいた。

次に浮上した問いは、では、要素間の関係性そのものがランダムに変化する場合には、どうやって理論モデルを立てらいいのかを考えていた。この問いをクネン先生に投げかけてみようと思って、口頭で自らブツブツと説明していると、その問いもあっけなく解けてしまった。

例えば、それらの関係性がランダムのように見えたとしても、実際にはランダムではない場合が多々あるのだ。それはまさに、システムの要素間の関係が「決定論的カオス」である場合だ。

決定論的カオスというのは、見かけ上ランダムに見えるのだが、実際にはそのランダムを生み出している特定のルール(数式)がある、という現象である。これは、私たち人間の認識能力の限界と関係しているが、一見ランダムに思えるような現象でも、それはランダムではなく、それを生み出している特定の構造が存在している場合があるのだ。

このようなケースの場合、ランダムに思える関係性に対して数学的理論や手法を用いて、それを生み出す特定のルールを把握してしまえば、理論モデルを打ち立て、数式モデルを打ち立てることが可能になると思ったのだ。

それでは、要素間の関係性が本当にランダムの場合、どのように理論モデルを打ち立てらいいのか、という問いが浮上してきた。これについては明確な解答が自分の中にまだない。

そもそも、ダイナミックシステムアプローチを活用する現在の発達科学者が研究対象とする現象は、二つの要素間の関係が時間の経過に応じて変化しないようなものを扱い、それを理論モデルとすることに依然として留まっている。

そこから今後は、時間の経過に応じて、要素間の関係が変化するような現象を扱うことになるのではないかと私は思っているが、そうだとしても、せいぜい上記の最初の問いに該当するような現象だろう。

要素間の関係がそもそもランダムな現象は、人間の発達において実はそれほど多くなく、ランダムに思える現象も、その背後には特定のルールが存在する「決定論的カオス」のような現象が多いのではないかと推測している。

そのため、完全にランダムな現象に対して理論モデルを組み立てることは、実際の研究においてほとんどないのではないかと思う。だがもちろん、この問題については引き続き考えていきたいと思う。 最後に、今回はシステムを構成する二つの要素を取り上げたが、それが三つの要素であろうと四つの要素であろうと、さらにはn個の要素であろうと、上記と同じ考え方を用いて理論モデルを組み立てることができてしまうだろう。

少しばかり脱線をしてしまったので、再び“Principles of Systems Science (2015)”を読み進めたい。2017/3/16

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