本日の仕事を全て終え、昨日の「複雑性とタレントディベロップメント」のクラスを少しばかり振り返っていた。クラスもいよいよ佳境に差し掛かり、残すところ、後二回のクラスとなった。
昨日のクラスは、二人のゲストスピーカーが前半の講義を担当した。一人目に登壇したのは、私が所属するプログラムのコーディネーターを務めるルート・ハータイ教授である。
ハータイ教授のレクチャーは、タレントディベロップメントの概略とそれをダイナミックネットワークアプローチの観点から説明するものであった。タレントディベロップメントの概略については、フローニンゲン大学で最初に履修したコースのものと重複するところもあったが、再度、複雑性科学の観点からタレントディベロップメントについて考察するきっかけとなった。
最近、私の中で少しずつ考察を深めたい論点は、時間の経過に応じて、能力の発達に影響を及ぼす構成要素間の関係性が変化する現象をどのようにモデリング化するか、というものである。私たちの能力というダイナミックシステムには、往々にして、その構成要素間にはフィードバックループの関係がある。
そして、フィードバックループの関係も、要素Aが要素Bに対して一方的に影響を及ぼしている場合(single causality)もあれば、お互いの要素が互いに影響を及ぼしている場合(multi-causality)もある。また、ある要素が別の要素に与える影響が正のものなのか負のものなのかというパターンがある。
昨日のハータイ教授のレクチャーを聞きながら、レクチャーの内容を脇に置いて、ノートに書き留めていたのは、それらの組み合わせに関するものであった。もしかしたら抜け漏れがあるかもしれないが、ノートに書き留めておいたパターンを箇条書きの形で明記しておく。 1:要素Aが要素Bに対して、正の影響を与える。 2:要素Aが要素Bに対して、負の影響を与える。 3:要素Bが要素Aに対して、正の影響を与える。 4:要素Bが要素Aに対して、負の影響を与える。 5:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AはBに正の影響を与え、BはAに負の影響を与える。 6:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AはBに負の影響を与え、BはAに正の影響を与える。 7:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AとBがお互いに正の影響を与える。 8:要素Aと要素Bが相互作用する際に、AとBがお互いに負の影響を与える。 これらの組み合わせを全て考慮に入れた上で、二つの要素の関係性を見極めていくことが、ダイナミックシステムアプローチを活用した理論モデルの構築の出発点になるだろう。ダイナミックシステムアプローチを学び始めた頃は、たった二つの要素の関係性を考えることに四苦八苦していたように思う。
これまで理論モデルを構築する際には、時間の経過に応じて、抽出した要素間の関係性が変化しないことを全体に理論モデルを組み立てていた。だが、昨日、ハータイ教授がダイナミックネットワークアプローチのシミレーションに関するアニメーションスライドを映していた時に、それとは直接関係なく、さらに一歩踏み込んで考えなければならないことがあることに気づいた。
それは、tからt+1、t+1からt+2に時間が変遷するに応じて、要素間の関係性が変化するような現象の場合、どうしたらそれを理論モデルとして構築することができるのか、という問題である。これはとりわけ面白い問題であり、ハータイ教授のレクチャーの間中、私の頭の中はこの問題で一杯であった。
ハータイ教授のレクチャーの途中、もしくは最後にこの点について質問をしようと思ったが、今回のレクチャーの内容から大きく逸脱しているように思えたので、この問題を自分の中で温めることにした。
現在、システム科学とネットワーク科学を同時並行的に学ぶことによって、少しずつ確実に、人間の発達現象をシステムとネットワークの観点で捉える思考様式が自分の中に構築されつつある。それに応じて、これまで単純に発達理論を学んでいただけては見えてこなかった現象が、一挙に目の前に開けてきたような感覚を持っている。
今は、そうした開かれた眼によって捉えられる多様な現象に圧倒されることなく、ひとつひとつ、自分の頭でそれらの現象を整理するように心がけている。
上記の問題で言えば、システムを構成する要素がネットワーク関係を成し、各要素というノードが時間の経過に応じて伸縮するだけではなく、要素をつなぐリンクの関係性までもが、時間の経過に応じて変わりうる場合における理論モデルを構築することが、自分の中で一つの探究しがいのある論点になっている。2017/3/16