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815. 体現的認知とエントロピーの推移


今日は夕方から「複雑性とタレントディベロップメント」のクラスに参加してきた。このクラスは、いつも私に言葉にならないぐらいの学びをもたらしてくれる。

今日のクラスも、これまでと全く同様に、実に学びの多いものであった。このコースを担当するマライン・ヴァン・ダイク教授とラルフ・コックス教授は、いつも私の探究活動の幅をさらに広げ、さらに深くしてくれるような観点を提供してくれる。

特に、コックス教授は私の関心と完全に合致する専門性を持っており、先週も彼の研究室でミーティングを行ったのだが、今年中に数本はコックス教授と何かしらの共同論文を執筆したいという思いがある。実際に、具体的なテーマもあり、コックス教授との共同論文を執筆する日が今からとても待ち遠しい。

今日のクラスのテーマは、「体現的認知(embodided cognition)」と翻訳することができるだろうか。その翻訳が正しいものかはさほど重要ではなく、この概念が意味することの方がより重要であろう。

正直なところ、この概念は、私が米国のジョン・エフ・ケネディ大学の大学院に留学していた頃からよく耳にしていた。特に、脳神経心理学や身体心理学のコースの中で取り上げられることが多かったと記憶している。

簡単にこの概念の意味することを述べると、私たちの認知とは、決して脳の中にあるわけではなく、環境の中にあるわけでもないことを示唆する。それでは、私たちの認知はどこに存在するかというと、身体(body)・心(mind)・脳(brain)・環境(environment)の相互作用の中にある、と示唆するのが体現的認知と呼ばれるものの正体なのだ。

この概念は、以前紹介したように、私たちの認知が身体・心・脳・環境の相互作用が生み出す文脈の中で緩やかに構成される、という考え方とほとんど同じである。本日のクラスは、この体現的認知についてより多角的な観点から理解を深めることが目的であった。 そうした主目的に付随して、先日、自分で論文を読み進めていたテーマと合致するトピックが本日のクラスで取り上げられた。それは、ダイナミックシステムとしての私たちの知性や能力が発達するときに、システム内のエントロピーが増大するという現象についてである。

偶然ながら、私が先日読んでいたのと全く同様の論文を引用する形で、コックス教授が、ダイナミックシステムの位相変異とエントロピーの増大との関係性について解説をした。それを聞きながら、堰を切ったように、今の自分が従事している研究に関して新たなアイデアが湧き上がってきたのだ。

こうした状態に陥ると、外界からの情報が一切遮断され、私は自分の内側の世界の奥底に入り込むような感覚になる。そうした感覚の中で、自分の取り留めもない考えをただひたすら文字や図の形でノートに書き出していくのだ。

こうした衝動的な行動が収まった後、顔を上げて再びコックス教授のレクチャーに戻ると、幾分時間を忘れて自分の思念を外に吐き出すことを行っていたのだと気付いた。ここで細かなことを論じることは避けるが、重要なのは、エントロピーというダイナミックシステムにおける変動性が増加局面に入ると、それはシステムが次の位相に移行することを示す予兆となりうるのだ。

現在の位相において、システムがある一定量のエントロピーに耐えられなくなる時、システムは非連続的に次の位相に移っていく。すると、面白いことに、システム内のエントロピーは再び減少するのである。

そのため、ダイナミックシステムの質的発達を捉える際に、エントロピーの増加と減少、特にエントロピーの極限値を捉えることが重要になる。ダイナミックシステム内のエントロピーの変化を捉える手法としては、まさに今朝取り扱っていた「状態空間グリッド(State Space Grid)」や「再帰定量化解析(Recurrence Quantification Analysis)」などがある。

これまで、状態空間グリッドや再帰定量化解析が示す項目を何度も見てきており、それらの中にエントロピーの項目があることを知っていたのだが、ダイナミックシステムの位相変異を捉えるために、この項目を活用することを意識したことはなかった。

今改めて、クラスの中で走り書きしたノートを見返してみると、エントロピーという指標を研究論文の “Results”のセクションに盛り込まなければならないと記載されている。ぜひ、エントロピーの推移にも着目して、分析結果を解釈したい。2017/3/8

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