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814. 60年後のその日に向かって


今日の午後に、大学の図書館で論文をコピーしている最中に、やはりフローニンゲンには少なくとも三年間留まっておきたいという思いが噴出した。

この計画は、以前から可能性として残していた程度のものだったのだが、先ほどの図書館内での一件以降、実現可能性の高いものとして浮上してきた。当初は、フローニンゲン大学で二年間ほど研究をしてから、米国に戻る予定であった。

もしくは、最近新たな選択肢として浮上してきたように、ハンガリーのブダペストで三年間ほど研究活動に従事しようと考えていた。だが、そうした計画を押しのけるような勢いで、フローニンゲン大学に三年間は留まっておきたいという思いが噴き上げてきたのだ。

端的に述べると、フローニンゲン大学での学びはこれまでの人生の中で最大のものであり、そうした感覚をこの七ヶ月間常に持ち続けている。仮に、人間の推測能力の妥当性がいかに乏しいものであったとしても、学びで張りつめられたこの感覚は、少なく見積もっても、後二年半はその強度を失うことはないであろう、と私は確信している。

そうした確信もあって、フローニンゲン大学には合計で三年間ほど滞在したいと思うようになったのだ。米国の大学院と同様に、大学院卒業後には、一年間ほどその国に滞在できる制度がオランダにもあることを先日知人から聞いた。

そうした制度があるのであれば、何も焦って米国に再び戻るのではなく、もう一年間ほどオランダに滞在するのも悪くはないのではないか、と思ったのだ。それ以上に重要な理由は、フローニンゲン大学での最後の年は、今のような生半可な量の文章を書くのではなく、ひたすらに文章を毎日書き続けるためだけに捧げる一年にしたいと思っている。

これはもちろん、今お世話になっている教授陣と協働して、質の伴った学術論文をできる多く執筆することを意味する。実際には、今年の五月に修士論文の執筆が完了したところを出発地点とし、修士論文の内容をもとに、少なくとも三本の査読付き論文を複数の教授と共著論文の形でジャーナルに投稿する計画を立てている。

一言で述べると、まだ私は研究者としての仕事を何もしてない。今はただひたすらに修練の時なのだ。文字どおり、自分の生命が枯れるその瞬間まで文章を書き続けるために、土壌を耕し続けているのが今の私の姿なのだ。

同時に、学術論文というものを執筆したいという圧倒的な欲求のようなものが、自分の内側に芽生えているのを実感しているのも確かである。だが、これはもはや欲求と呼べるような代物ではないだろう。

というのも、もはやその感情の帰属が自分にあるとは全く思えないからである。実際に、文章を書き続けることによって、自分という存在を根本から溶解させたいとすら思っているのだ。

文章を書き続けるという行為の果てに、自己が完全に解体されることがあったとしても、それを全く厭わないし、それこそが私の望む姿だと言える。さらには、フローニンゲンでの最後の年は、今のような僅かな分量の日記を日本語で書くことを自分に許しはしないだろう。

このような微小な投入量では何も始まらない。自分の日記の分量を見返すにつれ、私が普段の生活の中で、いかに日本語を用いて思考をしていないのかを痛感させられる。

現在、英語で執筆する自分の学術論文が、科学者のコミュニティーの中でようやく恥をかかない次元のものになりつつあるが、それを支えるのは、やはり母国語運搬能力であるように思える。ここからさらに書き言葉における英語運搬能力を引き上げるためには、どうしても母国語運搬能力を同時に高めていく必要があるのだ。

しかし残念ながら、私は日本語で学術論文を書く訓練を受けたことがなく、日本語で論文を書く機会がないため、その代わりとして、日記で自分の考えを何かしら日本語で書き留めたいと思っている。だが、今の量の日記の分量を見るにつけ、日本語運搬能力が高まっているのかどうかを疑問に思ってしまう自分がいる。

こうした甘えは、これまでの人生のいついかなる時にも自分に付きまとっていた。こうした甘えを一刻も早く払拭したい。

こうした甘えを払拭できた時、文章を書くという行為を通じて人生を終えることができるような気がするのだ。そうしたことの序章が、フローニンゲンでの三年目の生活と同時に開始されるのではないかという予感がしている。

文章を書くという行為を通じて人生を終えることができるという確証が得られたら、私は一刻も早く日本に帰りたいと思う。人生において何が起こるかわからないが、日本で再び生活を送ることができる日は、短く見積もっても、50年か60年先のことになるだろう。

その日に向かって、私はひたすら歩き続けたい。2017/3/8

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