一時間ほど前に今日の午前中に関する振り返りを行った後、別の仕事に少しばかり取り掛かっていた。その仕事の最中、振り返りが足りなかったためか、先ほどのラルフ・コックス教授とのミーティングで得られた事柄に思考が巡っており、仕事が少し上の空であった。
そのため、やはりここでもう少しばかり、午前中のコックス教授とのミーティングの内容について書き留めておく必要があると思った。変動性の種類を特定するための手法である「標準化分散解析(Standardized Dispersion Analysis)」と「トレンド除去変動解析(Detrended Fluctuation Analysis)」についてコックス教授に質問をした後に、さらに助言を求めていたのは、「交差再帰定量化解析(Cross Recurrence Quantification Analysis: CRQA)」と呼ばれる手法についてである。
以前にも何度か言及しているように、交差再帰定量化解析は、二つの構造的に結びついたシステムがどの程度シンクロナイゼーションしながら運動しているかを分析する手法である。「複雑性と人間発達」のコースの中で、コックス教授がこの手法について詳しく説明してくれていたにもかかわらず、私は自分の理解をより深めるためにも、もう一度基本の部分から説明を求めた。
以前、コックス教授が述べていたように、非線形ダイナミクスに関する話をするのはとても好きだという発言を裏付けるように、非常に親切かつ丁寧に交差再帰定量化解析について説明をしてくれた。この手法は、私の研究において、教師と学習者の行動におけるシンクロナイゼーションを分析するのみならず、教師と学習者の会話の複雑性レベルにおけるシンクロナイゼーションを分析する際にも活用する予定である。
そのため、私の現在の研究において、交差再帰定量化解析は非常に核となる研究手法だ。
冒頭で言及した「標準化分散解析」や「トレンド除去変動解析」とは異なり、交差再帰定量化解析はそれほど多くのデータポイントを必要とせず、手持ちの各クラスのデータセットに対して適用することができる。今回のデータは、行動分析にせよ、複雑性分析にせよ、どちらも共にカテゴリーデータだ。
どちらも定性的なデータに対して、作成したコーディングマニュアルを適用し、定量化したものである。厳密には、教師と学習者の行動は「名義データ(nominal data)」と呼ばれ、行動に振られた数字は単にカテゴリーの区別を示すだけであり、その数値の大小が何らかの意味を持つことはない。
一方、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論をもとに定量化された会話のスキルレベルに関するデータは、「順序データ(ordinal data)」と呼ばれる。スキルレベルの増加は、質的に異なる意味を持っており、このデータにおいては順序が意味を持つ。
これら二つの特徴を持つのが、今回の私の研究データである。こうしたカテゴリーデータに対しても交差再帰定量化解析を活用することができるため、この手法はとても便利であり、なおかつ、応用範囲が非常に広い。
交差再帰定量化解析の元にある「再帰定量化解析(Recurrence Quantification Analysis: QRA)」の原理からもう一度説明してもらうことによって、理解が非常に深まった。特に、解析の際に設定する「半径(radius)」の意味をよりクリアなものとすることができた。
半径の設定が重要なのは、ポアンカレの回帰定理が示すように、ダイナミックシステムは状態空間の中で、全く同じ場所ではないが、ある地点の近郊に繰り返し戻ってくるという特徴があるからである。例えば、半径を大きくすればするほど、必然的に繰り返しポイント(recurrence point)を多く検出することができる。
しかし、半径を大きくしてしまうと、ある地点の近郊に戻ってくるはずの点以外の点までも、繰り返しポイントとして検出してしまうことになり、解析結果の信頼性を落としかねない。そのため、適切な半径を設定することが大事になるのだ。
ただし、厳密な半径の値を設定することが重要なのではなく、必要な繰り返しポイントを取得できる値を設定することが大切となる。また、カテゴリーデータを持ちる場合、その性質上、半径は0に設定するか、限りになくゼロに近い値を設定することが一般的である。 正直なところ、プログラム言語のRを活用すれば、交差再帰定量化解析をすぐに実行することができる。しかし、いろいろな分析項目が一挙に表示され、一つ一つの項目に対する数値結果の意味を解釈するのは、いつも専門書を手元に置きながらでなければ依然として難しい。
今日は、コックス教授の説明のおかげで、これまでの私が完全に見落としていた解釈の観点があることを発見することができた。交差再帰定量化解析をプロット図で表現すると、縦の直線、横の直線、斜めの直線が現れる場合がある。
この線が現れる度合いに応じて、例えば、私の研究データで言えば、教師が学習者の行動を牽引しているのか、逆に、学習者が教師の行動を牽引しているのかなどを説明することができる。この点は非常に面白い。
今日から数日間は、「複雑性と人間発達」のコースで取り上げた論文や自学自習のために購入した専門書を引っ張り出し、「標準化分散解析」「トレンド除去変動解析」「再帰定量化解析」「交差再帰定量化解析」に関する理解をもう一度じっくりと深めたいと思う。2017/3/1