昨日は、普段に比べて、幾分多くの日記を書き留めていた。朝と夕方の二回に文章を書くということが習慣になっており、それ以外の時間帯においても、文章を書き留めておきたいという思いが自発的に湧き上がってきたら、その都度文章を書くようにしている。
昨日は内側から促されるように文章を書き残していたように思う。とりわけ大きな出来事があったようには思えないのだが、なぜだか文章を書き留めておきたいという強い促しがあったのだ。
昨日の「複雑性とタレントディベロップメント」のクラスにおいて、オランダ語ではなく英語を用いるグループワークに従事している最中に、改めてメンバー四人の視点や考え方が多様であることに気づかされた。
私の勧誘によってオランダ語グループではなく英語グループの方に参加してくれることになったオランダ人のピーターと、ドイツ人のフラン、インドネシア人のタタ、日本人の私は、それぞれに違った感性や思考を通じてこの世界を生きているのだということが、グループワーク中の何気ないやり取りからはっきりと掴めたように思う。
ここに私は各人の固有性を見た気がした。これは何も、国籍が異なることから生まれる固有性ではなく、もっと根本的な固有性である。
それは、一人の人間が独自に持つ固有性だと言えるだろう。その人だけが持つ生の一回性から生み出される、真の固有性と表現してもいいかもしれない。
そうした真の固有性が、私たち一人一人の人間には備わっている気がしてならなかったのだ。そこからふと思ったのは、やはり自分の考えや感覚から出発することの大切さである。
私たちはどうして自分の考えや感覚から出発することをためらう必要があるのだろうか。自分の考えや感覚というのは、その人の固有性から生み出されたものであるがゆえに、自分の考えや感覚から出発しないことは、自分の固有性を殺していることに等しいのではないかとすら思う。
自分の考えや感覚を探り、そこから出発をするというのは、自己耽溺とは全く異なるものである。それは自己に溺れるどころか、自己から解放される道を歩み出すことに等しい。
以前にも言及したように、自己の考えや感覚というのは固有性を帯びたものなのだが、そこから出発し、それを突き詰めていくと普遍性に至るのだと思う。そのため、自己の考えや感覚から出発するというのは、自己陶酔に浸ることでもなければ、自閉的になることでもない。全く逆である。
それは徹底して、小さな自己からの解放へ向けて歩み出すことに他ならないのだと思う。自分の考えや感覚を一つ一つの固有の命であるとみなし、それを殺さずに育み続けることが大事である。
それによって初めて、考えや感覚の純化が始まり、それがいつか普遍性の境地に至るのだと思う。昨日のグループワークでの何気ないやり取りから、そのようなことを考えさせられた。 今日の午前中は、昨日の午前中と同様に、エスター・セレンとリンダ・スミスが執筆した名著 “A dynamic systems approach to the development of cognition and action (1994)”を読み進めていた。第三章を読んでいる時にふと、先日書き留めていた「留まること」に関する新しい意味が見えてきた。
そもそも、私たち人間のようなダイナミックシステムは、必ず何かしらのアトラクター状態を好む傾向がある。私たちの知性や能力においても全く同じであり、それをさらに小さなダイナミックシステムとみなした場合、必ず何かしらの安定的な状態を好むのだ。
アトラクターに関して以前にも紹介したように、それは全く動きがない静的な状態ではない。むしろ、そうした静的な状態を生み出すために、当のシステムは動的に運動を続けているのだ。
そのため、こうしたアトラクター状態のことを「動的安定性」と呼ぶという点を紹介していたように思う。まさに、私たち自身、そして知性や能力というのは、一つの動的安定性を十分に経験することによって、また別の動的安定性を獲得していくという特徴を持っているのだ。
このように、一つのアトラクター状態に留まり、そこからあるとき突如として、別のアトラクター状態に移行するというのが、私たちの発達の本質に備わっている。この点に着目したとき、やはり私は、留まることというのは非常に大切な現象であると思ったのだ。
実際には、一生抜け出ることのできないアトラクター状態も存在していると思うが、私はあえてそうしたアトラクター状態でさえも肯定的なものとみなし、仮にそれに捕まることになったとしても、そうしたアトラクター状態が持つ無限の深さから帰還したいと思う。
今の私は、成長や発達を遂げること、変化するということ、移行するということよりも、そこに深く留まることに固有の価値を見出しているようだ。留まることとアトラクター状態という現象には、まだまだ隠された真実がありそうである。2017/2/23