今日は、早朝の五時半に起床し、最初に取り掛かったのは、エスター・セレンやリンダ・スミスと並んで、ダイナミックシステムアプローチ(DSA)を発達科学に適用することに多大な功績を残したポール・ヴァン・ギアート教授の論文である。
この論文は、昨日の「複雑性とタレントディベロップメント」というコースの中で言及されていたものであり、特にDSAを適用した研究をどのように、そして、どれほど一般化することができるのかを扱っている。
実際のところ、研究者の間でも、DSAから得られた研究結果を一般化することは難しいと考えられがちである。というのも、DSAを活用した発達研究の肝は、集団ではなく、一人一人の個人の発達プロセスやメカニズムに着目することにあるからだ。
つまり、既存の発達研究のように、安易に平均という概念を適用することはなく、集団のレベルで調査を進めていくこともなく、あくまでも個人のレベルでその発達プロセスやメカニズムを調査していくという特徴がある。
そのため、DSAを適用した発達研究は、個人がどのように発達していくのかを明らかにすることに適していると言える。ペンシルバニア州立大学のピーター・モレナーが主張するように、人間の発達プロセスは、平均に還元できない変動性を常に含んだものであることを示唆する「非エルゴード性」という特徴を持っている。
そのため、平均の概念を活用しながらグループ間を比較するような研究アプローチでは、各人固有の発達プロセスを明らかにすることはできない。ただし、DSAを用いた発達研究は、個人の発達プロセスに着目しているがゆえに、得られた調査結果を集団レベルにすぐさま適用することはできないことにも注意が必要である。
そのため、伝統的な発達科学者を含め、統計学を用いながら集団比較を行うことに馴染みのある者にとっては、DSAを活用した研究から得られる事柄をどのように一般化するのかという問題は興味深いことであり、同時に疑問を持つことでもある。
端的に述べると、DSAを適用して得られた調査結果は、それが個人の発達プロセスを調査するものであるがゆえに、直ちに集団レベルに一般化することはできない。その代わりに、ある特定の個人の発達プロセスに焦点を当てることによって、そこから得られた発見事項をもとに理論モデルを組み立てることができれば、まずはその個人の発達プロセスのある側面に関して一般化を行えたことになる。
さらに、その理論モデルを数式モデルに変換することができれば、それが他の個人にどれだけ当てはまるのかをコンピューターシミレーションを実施することによって、その理論モデルの一般化の度合いをさらに拡張していくことができる。
つまり、DSAを活用した発達研究は、得られた発見事項を直ちに一般化することができないという問題を抱えていながらも、二つの段階を経ることによって、その一般化の度合いを拡張させることができるのだ。
厳密には、DSAを活用した発達研究は数式モデルを活用したコンピューターシミレーションを駆使し、私たちが特定の知性や能力をどのように発達していくのかを調査する点において、発達のプロセスよりも、ある発達プロセス内における発達メカニズムを調査するものであると言えるかもしれない。
一方、同じく応用数学を活用する非線形ダイナミクスは、特にフラクタル解析や再帰定量化解析などは、発達メカニズムというよりも、発達プロセスに見られる特徴を記述的に説明するものだと言えるかもしれない。
もちろん、非線形ダイナミクスが持つ多様な研究手法をどのように活用するかによって、発達プロセスに見られる特徴を記述するのみならず、発達メカニズムにまで踏み込んで探究をすることができるのかもしれない。
だが、少なくともフラクタル解析や再帰定量化解析という手法は、発達のメカニズムについて言及するというよりも、発達プロセスに見られる特徴を一般化して説明するような傾向が見られるように思う。
この辺りの論点に関しては、ラルフ・コックス教授が深い知見を持ち合わせているので、彼に質問を投げかけてみようと思う。2017/2/16