そういえば数日前に、リーダーの存在について考えさせられるような出来事があった。記憶が残っているうちに、その話題について雑感を書き留めておきたい。
その日は、午後の仕事にある程度取り組んだ後、書斎の窓から景色を眺めた時、窓ガラスにぶつかりそうなほど近くに飛ぶ鳥たちの姿を確認した。白いカモメが何羽か窓のすぐそばを通り過ぎていくのを見たのである。
そして、視点を近くから遠くに移すと、V字型で飛ぶ鳥の一群を発見した。そこにはリーダー役の鳥はおらず、それにもかかわらず、一つの大きな集団として目的地に向かって力強く飛んでいた。
これは、複雑性科学の世界では「自己組織化」と呼ばれる現象である。つまり、ここでは、リーダーが存在しなくても、全てのメンバーが自律的な振る舞いをすることによって、自発的に機能する組織の形態を生み出していたのである。
そこから、先日読んでいたダイナミックネットワーク理論に関する、一つの論点を思い出していた。それは、自己組織化したネットワークは非常に強い強度を持つという論点である。
要するに、自律的な振る舞いをする一つの要素がノード(結節点)となり、それらが相互作用することによって生み出されたネットワークは、仮にノードのどこかが崩れても、全体に与える影響はそれほど大きくなく、ノードの崩れを補うかのように組織全体が修復され、結果として再び元の姿に戻るという特徴を持つのだ。
そこから思うに、全てのメンバーが自律的な振る舞いをすることができるのであれば、その組織にはリーダーなどいらないのではないか、という考えが浮かんだ。もちろん現実的には、全てのメンバーが自律的な人財であることは難しいかもしれないだろうし、タスクやプロジェクトによってはリーダー役を仮に設定しておく必要などはあるだろう。
しかし、一人のリーダーに依存する組織は、ひとたびそのリーダーが機能不全に陥ったり、不在になったりすると、突如として機能が著しく低下する。最悪の場合には、崩壊の方向へ向かい始めることもあるだろう。
V字型で飛ぶ鳥の一群を見ながら、強いリーダーシップを持つ人間を希求する社会の風潮に相容れない考え方が湧いてきたのだ。思うに、社会や組織の構成員が未成熟であり、彼らが自律的な振る舞いをすることができない場合、強いリーダーが必要になるのではないだろうか。
しかし皮肉にも、強固なリーダーがいる組織ほど、リーダーが突如として機能しなくなると、それが即座に全体の歪みにつながるため、組織としての強度は脆弱なのだ。目を通していたダイナミックネットワーク理論に関する専門書にそのようなことを考えさせてくれる概念が紹介されており、大変興味深い内容だと思った。
ダイナミックシステム理論やダイナミックネットワーク理論を中心に、複雑性科学の観点と発達理論の観点から、組織におけるリーダーシップについてさらに考えを深めていきたいと思う。2017/1/25