今日は、「複雑性と人間発達」のコースにおける最後のクラスが行われた。振り返ってみると、このコースは私にとって非常に意味のあるものであり、ダイナミックシステムアプローチに関する理論と研究手法に関して多くのことを教えてくれた。
このコースのおかげで、ダイナミックシステムアプローチを活用する研究者として、さらには、実務家としての知識とスキルを向上させてくれたように思う。今日の前半部分のクラスは、前回に引き続きゲストレクチャーであるバート・トーネンが担当した。
現在、バートは博士課程に在籍しており、非線形ダイナミクスの手法に造詣が深い。前回のクラスでも、非線形ダイナミクスの興味深い研究手法を幾つか紹介してくれたため、今回のレクチャーもとても楽しみにしていた。
結論から述べると、今日のレクチャーも期待を裏切らないものであり、レクチャーの主なテーマは、非線形ダイナミクスの手法を活用したシミレーション予測に関するものだった。とりわけ、convergent cross-mapping (CCM:邦訳不明)という手法は、私の関心を強く引いた。
バートが言及していたように、CCMという手法は若干難解なものであり、私も今回のレクチャーだけで完全にこの手法を理解したわけではないが、その本質は、複数の非線形時系列データの間に存在する因果関係を把握するすることにある。
往々にして、人間の成長・発達を研究する際に得られる時系列データは、複雑かつ非線形なものである。それゆえに、そうした時系列データの因果関係を推測することはとても困難だ。
しかし、そうした推測を可能にしてくれるのが、CCMなのだということを今回のレクチャーで理解した。例えば、ロバート・キーガンが提唱した仮説の中に、「意識の発達には、適度な葛藤と適切な支援が必要である」というものがある。
この仮説の中で明示されている主要な変数は三つあり、それらはそれぞれ、発達段階、葛藤量、支援量である。人間の成長・発達が非常に複雑である所以は、それら三つの変数が相互に影響を与え合っているところにあるだろう。
単純に葛藤量が発達段階に影響を与えるのでもなく、単純に支援量が発達段階に影響を与えるわけではないのだ。つまり、葛藤量や支援量は発達段階に影響を与えながらも、発達段階の高度化が葛藤量や支援量に影響を与えることが考えられるのだ。
さらには、葛藤量と支援量も、どちらかが一方に影響を与えているのではなく、双方で影響を与え合っていると考える方が自然である。一般的に、既存の統計学の手法では、複数の非線形時系列データがお互いに影響を与え合っている場合、それらの因果関係を推測することは難しい。
しかし、仮にそれらの変数をうまく定量化し、なおかつ時系列データが適切に得られた際に、CCMが力を発揮するのだ。幸いにも、現在の私の研究では、非線形時系列データがすでにいくつか得られているため、今後の研究でCCMを是非とも活用してみたいと思う。
複雑な振る舞いを見せる現象を研究する際に、CCMの応用範囲はとても広いように思う。今日のクラスが終わり、早速バートの論文 “Using state space methods to reveal dynamical associations between cortisol and depression (2016)”をプリントアウトした。
この論文を読むことによって、CCMに関する理解をさらに深めたいと思う。2017/1/19