早朝の五時前後に起床すると、午前中の間にかなり多くの仕事をこなすことができる。午前中はまず最初に、アムステルダム大学教授ピーター・モレナーの論文 “A manifesto on psychology as idiographic science: Bringing the person back into scientific psychology, this time forever (2004)”を通読した。
この論文は、現在履修中の「複雑性と人間発達」の第六回目のクラスの講義資料に参考図書として載っていたものである。この論文は、発達研究において、個人間の変動性(interindividual variation)と個人内の変動性(intraindividual variation)をどのように扱えばいいのかを理解するのに有益である。
さらには、以前どこかの記事で取り上げた「エルゴード性」と「非エルゴード性」に関する私の理解をより深めてくれることに役立った。この論文を通読した後に取り掛かったのは、研究論文の執筆である。
研究提案書をもとに序章を書き上げ、論文全体の大まかな構成を練った。自分の内側に学術論文の型をより強固なものとして構築するために、様々な論文の体裁を参考にしながら、論文作成の流儀と論文の骨組みを再確認していた。
自分なりの論文作成手法を体系化し、数多くの論文をコンスタントに執筆していくまでにはまだ時間がかかりそうである。今回の研究論文執筆は、論文創出に関する法則性を自分の内側で見出す貴重な機会であるため、その機会を逃すことなく、少しでも論文作成手法の体系化につながるようにしたいと思う。
論文の序章を書き終えたところで、第二章の研究方法のセクションにつなげるための項目を考えていた。今回の研究は、成人のオンライン学習をテーマとし、成人の学習プロセスにダイナミックシステムアプローチを活用するものである。
第二章へのつなぎの項目として、成人学習に関する研究の現状を概観し、成人の学習は非常に複雑かつ動的なプロセスで進んで行くにもかかわらず、ダイナミックシステムアプローチを活用した研究が極めて少ないことを指摘することによって、次のセクションにつなげていきたい。
午後、つなぎの項目を執筆するための参考文献を書斎の本棚から取り出した。その専門書のタイトルは、 “Complexity and education: Inquiries into learning, teaching, and research (2006)”である。
複雑性科学と教育を架橋した内容を扱う専門書を私はそれほど持っておらず、もう一冊 “Complexity theory and the philosophy of education (2008)”が書斎の本棚にあるぐらいだ。どちらの書籍も良著であり、今回の研究論文を執筆する上でも言及することになるだろう。
前者の書籍を数時間にわたってじっくりと読み進めていると、書斎の窓からほのかに輝く夕日が目に入った。薄くかかった雲を優しく照らす黄色い光が書斎の中に差し込み、部屋全体を静かに包んでいる。
ふわりとした感覚質を持つ夕日を捉えた時、自分がフローニンゲンの街で再び生活を始めたのだと強く意識した。自分の内側の感覚がより柔和かつ鋭敏になっていく。自分の思考の感覚がより野生的かつ理性的になっていく。
部分をより正確に捉え、全体をより正確に捉える感性が研ぎ澄まされていくのを確かに感じる。これらの変化をもたらすものは、欧州の地からもたらされる恩恵だと思っていた。
しかし今となってみては、それらの変化をもたらすものは、地球の大地からもたらされる恩恵に他ならないことを知る。そうした認識上の変化を起こしたのは、年末年始の日本への一時帰国の影響が大きいだろう。2017/1/10