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638. ロシア上空での出会い


ヘルシンキ行きの便に関する搭乗案内がラウンジ内に鳴り渡る。この搭乗案内は、搭乗開始を告げるものではなく、最終案内であることを知り、少しばかり急ぎ足で搭乗ゲートに向かった。

五時間を超えるフライトでは、スペースにゆとりのある搭乗クラスにしか乗らないようになってからしばらく経つ。今回もヘルシンキ行きのJALのビジネスクラスにお世話になることにした。

本来、こうした搭乗クラスは優先的に機内に案内される特権があるのだが、最終搭乗案内を聞いてから機内に乗り込んだ私にとって、そうした特権はあまり意味をなさなかった。機内に搭乗すると、ビジネスクラスにすでに乗り込んだ人たちがウェルカムドリンクを飲んでおり、確かに自分が随分と遅れて搭乗したのだと知る。

いよいよ成田からヘルシンキへ向けた帰りの飛行機が空に舞った。行きのフライトの中で、オーロラを機内から観察するには今日が絶好の日だということを聞いていた。そのため、帰りの機内の窓からオーロラが見えることを非常に楽しみにしていたのである。

欧州路線に乗るときは、いつもCAの方にオーロラについて話を聞くのだが、いつも新しい発見事項が少なからずある。これまで欧州路線を活用するときはいつも、オーロラを見ることを心の奥底で期待している自分がいた。

それにもかかわらず、オーロラを見るための座席指定に関しては考えが及んでいない自分がいたのである。CAの方から話を聞くと、欧州から日本に向けての便では左側の座席を指定し、日本から欧州に向けての便では右側の座席を指定すると良いと聞いた。

なぜなら、どちらも北極圏側に面した座席だからである。今後、日本に戻るときには、できるかぎり北極圏側に面した座席を指定したいと思う。

オーロラへの期待を持ちながら、機内ではとても快適な時間を過ごすことができた。ダイナミックシステムアプローチに関する二冊の専門書を随分と読み込むことができたし、自分の仕事を進めることもできた。

結局、行きの便と同様に、一睡もすることなく、自分の研究と仕事をこなすことに集中していたのである。フライト時間がちょうど半分を過ぎた頃だっただろうか。

「残念ながらオーロラは見えないが、その代りに綺麗な太陽が見える」と一人のCAの方から声をかけていただいた。思わず仕事の手を止め、その方の後をついていき、非常口の窓から鮮やかな太陽を拝んだ。

その方と一緒に、地平線の上から顔を出す黄金色に輝く太陽をしばらく眺めていた。自然が生み出すこのような美にずっと浸っていたいという思いで、じっとその太陽を見つめていた。

するとまた、もう一人別のCAの方が加わり、ロシア上空に凛として輝く夕暮れ前の太陽を三人で拝んでいた。新しく加わった方が「『君の名は。』をご覧になれましたか?その映画で出てきた太陽みたいですね」と述べた。

東京滞在の一日目にその映画を見ていたはずなのだが、映画の中の太陽の輝きを忘れていたため、その方の言葉のおかげで、再び作品内の太陽の輝きを想起することができた。私は、ロシア上空で出会ったこの新年の太陽を忘れることはないだろう。

この太陽が顕現する輝きと美は、私の中から金輪際消えることはないと確信する。その輝きと美に常に寄り添いながら生きることができれば、どんなに幸せなことだろうか。2017/1/7

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