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631. ニッサン・インゲル先生との共同絵画作品『平穏な悟り世界における死と再生』


今回の一時帰国で楽しみにしていたのは、この夏の渡欧前に注文をしていた絵画作品を受け取ることであった。渡欧の直前、コラージュ画の大家であるニッサン・インゲル先生に自分が描いて欲しい絵画のイメージを伝え、作品を創作していただくという好機に恵まれた。

インゲル先生についての話や先生との出会いについては、以前の記事(記事241)で言及したように思う。今回は、インゲル先生に自分の想いやイメージを伝え、それを絵画作品として具現化していただく機会を得ることになった。

私が付けた作品のタイトルは、邦題『平穏な悟り世界における死と再生』である。作品の中心部に地球を模した大きな円を描いていただき、その円の中に陰陽のシンボルをコラージュで表現してもらうようにお願いした。

そして、地球の中にある陰陽の「陰」に当たる部分にベートーヴェンの音楽世界と万物の死を表現してもらった。また、「陽」に該当する部分にバッハの音楽世界と万物の再生を表現してもらった。

ベートーヴェンの音楽世界と地上的な世界観を対応させ、バッハの音楽世界と形而上的な世界観を対応させてもらうように依頼をした。そのような依頼をした背景には、ベートーヴェンの音楽もバッハの音楽も、書斎の中で毎日奏でられている音楽であるため、それらの音楽を聴覚のみならず、視覚を通じて触れていたい、という想いがあったのかもしれない。

また、「死と再生」を作品の根幹テーマにした理由は、当時の私が、常に一瞬一瞬の時間単位の中で生まれ変わることを実感していたからかもしれない。

そして、地球を取り巻く外側には、地球を包むようにしてモーツァルトの音楽世界と宇宙を表現してもらった。実家に届けられた絵画の梱包を解き、作品を眺めた瞬間以降、その絵が表現する内容が徐々に自分の内側に流れ込んでくるのを感じている。

この流れは、突発的なものでは決してなく、徐々に浸透するような、穏やかでありながらも重厚な流れであった。美しい青色を基調にした宇宙の中にモーツァルトの清澄な音楽世界が描かれており、その中に陰陽が表現された地球が描かれている。

そこには、バッハの音楽世界とベートーヴェンの音楽世界が体現されている。「絵画を聴き、音楽を描く」と評されるインゲル先生の真骨頂をこの絵の中に見いだすことができる。

同時に、私もこの絵を通じて、そこで表現されているものを視覚以外の感覚器官で捉えていきたいと思うのだ。この絵を書斎に飾り、毎日の仕事と同様に、この作品から汲み取ることのできる意味をより深いものにしていきたい。この絵からどのような意味を見出すことができるのかが、今後の自分の内側の成熟の試金石になるだろう。

最後に、この絵を製作してもらう時に、この作品を私個人のためのものではなく、普遍的なものにしていただきたい、というお願いをしていた。私がこの世界からいなくなった後、この作品を世界のどこかの美術館に飾っていただきたいという思いがあった。

多くの人に見ていただき、後世の人たちに少しでも何かを感じてもらえる作品にしていただきたかったのだ。芸術のみならず、ほぼ全ての仕事において、何かを形として残しておくことの大きな価値と意義を今の私は実感している。

この作品は紛れもなく、二人の人間の内面世界が交差することによって織り成された一つの形である。形を伴ったものは、後世に伝えていくことができるのだ。

先日京橋を訪れた時、改築中のブリジストン美術館の外観を眺めに行ってきた。インゲル先生の作品が所蔵されているこの美術館にいつか、『平穏な悟り世界における死と再生』というこの作品を寄贈する日まで、歩みを止めることなく進んでいきたいと強く思う。2017/1/4

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