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629. 変わらぬ新年


新年を迎えて一夜が明けた。一月の二日から、オランダにいた頃とほとんど変わらない生活リズムに戻った。学術論文や専門書を読んでいないと落ち着かないというわけでもなく、文章を書いていないと落ち着かないというわけでもないのだが、それらがない日常は今の私にとって考えがたいものである。

本居宣長は集中的な読書の後にしばらく書物から離れた、というエピソードを知人から聞いたことがある。私が書物から離れる日は果たしてやってくるのだろうか。

今日は午前中に、年末の島根・鳥取旅行を振り返っていた。旅行の最中、様々な考えや感情が生起していたと思うのだが、それらは長期記憶としてどこかに蓄えられているわけではなく、短期記憶としてどんどんと忘却の彼方に葬り去られていることに気づく。

旅行中の体験の中で、印象に残っている出来事の上澄みだけでも書き留めておくことは、なんとかそうした記憶を自分の中で繋ぎ留めておこうとする現われなのかもしれない。文章の形を取るものはどれも、短期的な時間軸で再度読み直したい体験というよりも、長期的な時間軸でいつか読み返したいと思うようなものなのだと思う。

自らの足取りをいつか確認するその日を迎えるまで、とにかく文章として体験に形を与えておくが何より重要だ。旅行中の体験を簡単に書き留めた後、 “Dynamics in action: Intentional behavior as a complex system (2000)”という論文を読んでいた。

著者のアレシア・ジャレロが執筆した、ダイナミックシステム理論に対する哲学的考察がなされた専門書を数ヶ月前に読んでいたため、比較的速やかにこの論文を読み解くことができるだろうと思っていた。

しかし実際には、ダイナミックシステム理論に関する言語体系がまだまだ私の内側で強固に構築されていないためだろうか、この論文で記述されていることが手に取るようにわかるというレベルで読み進めることは到底できなかった。

この論文と並行する形で、複雑系研究のメッカであるサンタフェ研究所が提供しているオンラインコースを受講していた。論文とオンラインコースを行き来することによって、集中力が持続し、学習が非常にはかどった。やはり学習内容を比較的短い時間間隔の中で切り替えていくことは、学習効率が上がるようだ。

この数年間少しずつ、ダイナミックシステム理論の数学的手法について学習を継続させていたため、「非線形ダイナミクス:数理的手法」というコースの内容が以前に比べてはるかに理解しやすくなっていることに気づいた。

先ほどのジャレロの論文は、ダイナミックシステム理論に関する哲学的な内容であったため、その領域における言語体系の未熟さを実感したが、ダイナミックシステム理論の数学的手法については、少しずつ言語体系が構築されつつあるのを実感している。

当然ながら、こうした実感は刹那的なものであり、さらに専門的な内容を深掘りしていけば、そこで再び自分の言語体系の脆弱さを実感するだろう。このように、進歩と未熟さを絶えず実感しながら進むことが何よりも大切なのだと思う。

オランダに戻る日が近づいてきているが、今の私にできることは自らの言語体系を少しずつ堅牢なものにしていくことだけなのかもしれない。2017/1/2

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