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619. 日本へ向けて


早朝五時に起床し、フローニンゲンの自宅を出発した。四年ぶりに年末年始を日本で過ごすことができるにもかかわらず、今の自分の言葉では表現できないような感情が自分の内側を流れている。

フローニンゲンの駅へ向かう最中、この気持ちはこの夏の欧州小旅行の時やデン・ハーグ訪問の時のものとは別種であることがわかった。今朝は、あの時の朝と何かが違うと感じた。

フローニンゲンからスキポール空港までは、電車で二時間半ほどかかる。途中のズヴォレの駅で乗り換えをし、電車に乗ると、やたらと席が空いている場所を見つけた。

後ほど、車掌がチケットを確認しに来た時、ここが一等車両だということに初めて気づいた。今日はクリスマスという特別な日ということもあったためか、車掌は快く、「今回は特別です」という言葉とともに、私が一等車両に留まることを許可してくれた。

そのまま一等車両に腰掛けながら、薄暗い外の景色をただ眺めていた。持ってきた専門書籍や論文に目を通す気分ではなく、何も考えることなくただ景色を眺めたかった。

今朝、起床直後に、自分の頭が完全に日本語優位になっていることがおかしかった。日本に一時帰国するためだろうか、まだ日本についていないにもかかわらず、思考空間が日本語で染まり始めていたのだ。

そのようなことを思い出しながら、車窓からの景色を眺めていた。ここのところ自分の中で色々なことが混乱しているように思う。

消化しきれないほどの知識と経験の断片が自分の中で何かを待つようにうごめいているのを感じるのだ。このうごめきに対して、今はなすすべもなく、ただ混乱している自分を受け入れるだけである。

日本を離れてから五ヶ月しか経っていないが、その間に様々な知識と経験が自分に流れ込んでいたように思う。今回日本に一時帰国するのは、こうした未消化な知識と経験を真に我がものとするためなのかもしれないと思う。

母国の大地に足を着け、静かな時間の中で、知識と経験を咀嚼していきたいという思いが去来する。そうこうしているうちに、スキポール空港に到着した。

車掌とのオランダ語でのやり取りの後、自分の思考はオランダ語から英語に切り替わっていた。オランダ語を毎日継続的に学習をし始めてから、日常生活でオランダ語を使うようなっているため、どこで英語に切り替えるかを悩むようになった。こうした悩む作業が煩わしい。

基本的に大学の中では英語の思考空間の中で活動をしているが、大学から一歩離れるとオランダ語を使おうとする気持ちになる。スキポール空港は国際空港であるから、ここでも場所を考えて、英語に思考を切り替えることにした。

最近、日・英・蘭の三つの言語が自分の中で本格的に混在し始めていることも、今の混乱した精神状態と何らかの関係がありそうだ。どの言語も中途半端であり、どの言語で生きていくかを選べない自分が苦しい。

この言語的苦しみを超えた先に、強靭な精神を獲得することが待っているのであれば、この苦しみを丸抱えにしたまま生きて行くしかないのだろう。2016/12/24

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