11月の初旬から開始したオンラインゼミナールも、いよいよ佳境を迎えた。最後の振り返りのクラスを除くと、今日は実質上、最後のクラスであった。
本日のクラスでは、この五年間において、一度も本格的に扱ったことのなかった発達心理学の巨人ジャン・ピアジェについて取り上げた。一般的な専門書にはあまり記述されていない、ピアジェの生い立ちから生涯を閉じるまでの人生を扱い、ピアジェの発達思想がどのような背景から生まれたのかを説明した。
ピアジェの発達理論の核となる幾つかの概念や段階モデルに触れながら、ピアジェの功績を辿ったのである。ピアジェは、他の発達科学者と同様に、私にも多大な影響を与えてくれた師のような人物である。
今日のクラスの中で、ピアジェが誕生したスイスのニューシャテルについて言及した時、この夏に訪れたニューシャテルの記憶が鮮明に蘇ってきたのだ。厳密には、ピアジェは、発達心理学者というよりも、私たちの知識がどのように獲得され、知識の体系がどのように構築されるのかを探究した「認識論者」という哲学者の顔を持っている。
知性に関する哲学者としてのピアジェの功績を、今日のクラスだけで話切ることは非常に難しかった。いつか数回のクラスを使って、ピアジェの功績をじっくりと紹介したいと思う。 ピアジェの発達理論に触れた後、新ピアジェ派や新・新ピアジェ派と呼ばれる研究者の発達思想と研究手法を紹介した。私は、新ピアジェ派から多大な影響を受けてきたという点、そして、私自身が新・新ピアジェ派に属しているという点もあり、両者については、今後より深く紹介していきたいと思わされた。
私にとって、不定期的にこの五年間継続させてきたオンラインゼミナールは、日本語で知性発達科学の知見を多くの方と共有できる貴重な機会をもたらす場であった。今回のゼミナールも、いよいよ来週で最後のクラスになることを思うと、今年の8月の欧州小旅行の際に、ドイツのリアーへ向かうバスの中で湧き上がった「侘び寂び」のようなものが込み上げてくる。
今回のゼミナールの終焉とともに、再び自分の中で新しい何かが始まることを知覚している。きっと全ての受講生の内側でも、そのような出発が起こるのだと思う。私たちの人生が常に出発からの出発であるように。2016/12/10