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589. ダイナミックシステムアプローチとR


以前言及したように、私の書斎には常に何かしらの音楽が流れている。これまでは、ピアノ曲を中心に聴きながら仕事をすることが多かった。一昨日、偶然ながら、作曲家の久石譲氏の映画音楽を聴く機会があり、とても感銘を受けた。

そこで流れていた全ての曲をダウンロードし、今日も朝からずっとそれらの曲を流していた。音楽に救われている、という感覚がまたさらに強まったように思う。音楽が日々の自分の支えになってくれていることに対して、感謝の念が強まる毎日である。

午後から夕食までの間、「複雑性と人間発達」のコースで取り上げられた論点の中で、特に自分が理解を深めたいものを抽出し、関連論文を片っ端から読むようにしている。こうした作業の中でふと、初回のクラスでクネン先生が述べていた何気ない一言を思い出した。

基本的に、ダイナミックシステムアプローチの数式モデルの多くは、エクセル上でシミレーションが行える。クネン先生が述べていたのは、統計解析向けのプログラム言語Rを活用することによって、ダイナミックシステムアプローチのシミレーションが可能である、ということであった。

仮に、Rの中でダイナミックシステムアプローチのシミレーション作業が行えるのであれば、非常に便利だと思った。というのも、研究プロセスの中で、自分のデータに対してRを用いた統計解析と、エクセルを用いたシミレーション作業を別々に行おうと思っていたため、それらの作業が全て、Rを用いて行うことができるのであれば、とても効率的だと考えたからである。

ロサンゼルス在住時代に、Rとダイナミックシステムアプローチの学習を独学で進めていた時に、 “Solving differential equations in R (2012)”という専門書を購入し、Rを用いて微分方程式を解く、というスキルを向上させようとしていた。

本書を二回ほど繰り返し通読し、書籍の中に記載されているプログラミングコードを実際に自分の手を動かしながら、Rを用いて微分方程式を解くということをしていた。本書の前半部分は、以前受講していた、サンタフェ研究所が提供する複雑性科学のオンラインコースで扱ったような概念や方程式を取り上げている。

そのため、前半部分に関しては、内容を理解しながらプログラミングコードを書くことができていた。しかし、本書の後半は、常微分方程式を超えて、偏微分方程式を取り上げているため、当時の私は、内容を理解することなく、ただ単にプログラミングコードを書いていたように思う。

今、少しばかり悩むのは、知性発達研究を進める中で、応用数学——特に微分積分学——に関する理解をどのレベルまで高めていくか、ということである。明らかに、本書の後半部分で取り扱われている数式モデルは、これから数年間の自分の研究で用いるとは思えないほど高度なものである。

微分積分学に関する自分の学習目標のようなものがないため、とりあえず現在は、牛歩の進度で、微分積分学について理解を深めようとしている。しかしながら、どこかで必ず、体系的に微分積分学を学ばなければ、一向に理解が進まないような気もしている。

微分積分学を体系的に学ぶ日がいつになるのかわからないが、それを行うことによって、現在手持ちの専門書や論文の理解がより容易かつ深いものになるだろう、と気づいている自分がいるのは確かだ。

「Rによるダイナミックシステムアプローチを活用した発達科学研究」というような専門書が登場することを待望する。仮にこのような専門書が出版されれば、ぜひとも購入したい。

そのようなことを考えながらも、今の私がとにかく取り組むべきことは、ダイナミックシステムアプローチに含まれる多数の概念の意味を的確に掴むことにあるだろう。そこで登場する概念の数は非常に多く、それらひとつひとつの言葉の意味を掴み、自分の言葉としてそれらを表現することが、最優先にされるべき事柄である。

その際に、個別の概念の意味を押さえながら、概念のネットワークを構築していくことを絶えず意識している。一つ一つの概念を理解する際には、それらを点と見立て、別々に意味を把握していく必要がある。

だが、それぞれの概念の意味が分離した状態では、知識の体系は構築されない。それらの概念を結びつていくネットワーク化の作業が必ず要求されるのだ。

「ダイナミックシステムアプローチ」という名前が付き、知性発達科学の範疇にある世の中の専門書は、大半のものが書斎の本棚の中にある。現在は、大学のオンラインジャーナルツールを有効活用し、自分の専門分野に触れている「ダイナミックシステムアプローチ」と名前がつく論文は、とりあえずすべてダウンロードし、プリントアウトするようにしている。

毎日着実に進めているのは、複数の専門書と論文を行き来しながら、ダイナミックシステムアプローチに関する概念を多様な文脈の中で理解することである。異なる文脈の中で同じ概念を目にすると、その概念に対する意味の幅が広がり、そこから意味を深めていくきっかけが生まれると考えている。

一つ一つの概念を深く、そしてそれらを組み合わせたネットワークの密度を濃くすること。何よりもまずはそれを重点的に行う必要がある。それらの概念をできる限り自分に引きつけ、自分の内側の感覚を通して意味を鷲掴みにしていくこと。その意識は重要だ。2016/12/4

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