現在履修している「複雑性と人間発達」というコースは、毎回新たな発見を自分にもたらしてくれる。クラスでの学びを書き留めることが全く追いつかないほどである。
また、クラスで取り上げられた内容について、自分なりに考察を深め、それらの内容を適切に消化していくという作業も行なっていく必要がある。第二回と本日のクラスを振り返ってみたとき、以前言及した「捕食者・被食者の個体数増加モデル」について、再び考えを巡らせていた。
前回のクラスでは、このモデルを主に取り上げ、Netlogoというコンピュータープログラミングを用いてシミレーションを行っていたが、モデルの意味をもう少しきちんと考えなければいけない。例えば、自分の研究とこのモデルを照らし合わせると、どのようなことが言えるだろうか。
現在私は、成人のオンライン学習を研究しており、学習者の概念理解度の発達プロセスを探究している。成人がオンラインを通じて何らかのコンテンツを学習するとき、一つの大きな目標としては、そのコンテンツに対する理解度を深めることにあるだろう。
そこで、被食者の個体数を学習者の学習コンテンツに対するモチベーションと見立て、捕食者の個体数を教師の不適切な関与(モチベーションを下げるような説明などの振る舞い)と見立ててみる。
つまり、教師の不適切な関与——捕食者の個体数——が増えれば増えるほど、学習者のモチベーション——被食者の個体数——が減少していき、学習者のモチベーションが減少すればするほど、教師の不適切な関与が減少する、という理論モデルを想定してみる。
このモデルの前半部分は直感的に正しいそうだが、後半部分は少し違和感があるだろう。というのも、少し皮肉的だが、学習者のモチベーションが低下していることを読み取り、自身の関与の方法を変えてくれる——つまり、不適切な関与を減らしてくれる——親切な教師はあまり多くないのではないかと思うからである。
そうした少し違和感を残すこの理論モデルが果たして実証的に妥当なのかを、Netlogoを用いたシミレーションで検証することができるのだ。前回のクラスの実習では、そこからさらに、もう一つの変数を加えた。
それは、被食者が餌とする草の存在である。要するに、草の数が増えれば増えるほど、被食者の個体数が増える、という関係性を新たに加えたモデルを扱っていたのだ。上記のオンライン学習のケースを踏襲すると、草という変数は、被食者の個体数——学習モチベーション——を増加させるものであることを考えると、これはどういったものがあるだろうか?
例えば、学習コンテンツの内容と学習者自身の関心との合致度などを想定することができるかもしれない。要するに、クラスで取り上げるトピックと学習者自身の関心が合致していればしているほど、学習モチベーションが高まる、という関係性である。
これは比較的妥当な関係性かもしれない。この関係性を上記の理論モデルに組み込み、再度シミレーションをしてみて、その新たな理論モデルが妥当かを検証することができる。
もちろん、シミレーションによる理論モデルの検証を行うためには、上記のすべての変数を何らかの方法で定量化することが要求される。そして、シミレーション結果と実際のデータを突き合わせるという作業も要求される。
コンピューター上で数値を変更させながら、シミレーションを何度も行うことと、シミレーション結果と実際のデータを突き合わせる作業を繰り返し行うことによって、理論モデルの妥当性の検証のみならず、理論モデル自体をより洗練させていくことが可能になる。
今の私に求められているのは、シミレーションを行うよりも先に、そして、数式モデルを構築するよりも先に、何はともあれ理論モデルを構築することである。新たな日々の習慣に加えたいのは、動的に変動する身の回りの現象を取り上げ、その現象を構成する重要な要素を幾つか抽出し、それらの要素間の関係をもとに、簡単な理論モデルを構築していくことである。
こうした理論モデル構築実践を習慣的に積み重ねていくことによって、理論モデル構築能力が高まるのみならず、動的な現象の発達プロセスを理解する力そのものが高まっていくだろう。