今日は、待ちに待った「複雑性と人間発達」というコースがスタートする日である。私がフローニンゲン大学に来た最大の目的は、このコースを受講することによって、発達研究にダイナミックシステムアプローチを適用する理論的・技術的な力を高めることであった。
ダイナミックシステムアプローチに習熟するためには、複雑性科学に関する理論的な知識を獲得する必要があり、さらには、コンピューターシミレーションを活用するためのスキルを獲得する必要がある。このコースは、ダイナミックシステムアプローチに関する知識とスキルを獲得することを目的にしているため、フローニンゲンに到着してから非常に心待ちにしていた講座である。
昨日は、少しばかり仕事への投入時間が多かったため、いつもより一時間多く睡眠時間を取った。起床後、普段通りの日課を済ませ、クラスに参加するための準備をした。自宅を出発してみると、今日の気温は比較的暖かいことに気づいた。
とても心待ちにしていたコースが始まるからであろうか、いつもより視線を高く保ちながら歩き、早朝のフローニンゲンの空に時折目を向ける自分がいたのだ。大学に向かう最中の道は、私にとって、瞑想的な意識状態に入るための場と化している。
一歩一歩の足取りに自覚的であり、その一歩一歩が自分の内面世界を刺激しているのがわかる。そこから、自分自身が紛れもなく、外部の環境と内側の心理状態の相互作用によって編まれたダイナミックシステムであることに気づく。
今回のコースを受講することによって、この世界に存在する無数のダイナミックシステムに関する理解を向上させるだけではなく、自分というダイナミックシステムに関する理解を向上させていきたいと思うのだ。
つまり、このコースは私にとって、自分自身をより深く知るための羅針盤の役割を果たすと思っている。これは少し先の話になるが、このコースを全て受講し終わった時、もう私は以前の私ではなくなっているだろう、という確信めいたものがある。
それぐらい、ダイナミックシステムアプローチが持っている無数の概念や理論は、私にとって大きな意味を持つものであり、それらを学習することは、大きな変容効果を私にもたらしてくれるだろう、と予感しているのだ。今日、クラスが行われる教室に向かう一歩一歩がすでに、そうした変容に向けての歩みだったことを実感している。
クラスが行われるコンピュータールームに到着すると、私が一番乗りであった。その後、インストラクターかつ私の論文アドバイザーであるサスキア・クネン先生が部屋に入ってきた。
各クラスでは、前半に理論的な解説があり、後半にコンピューターを活用した実習が行われる。今回のコースは、クネン先生曰く、当初予定していた受講人数の20名を遥かに超え、35名ぐらいの受講者がいるそうである。
私が到着して以降、続々と受講者が教室に入ってきた。受講者の構成は、私たちのように、ダイナミックシステムアプローチに関心のある修士課程の者や、博士課程やポスドクの者がいる。さらには、二名ほどの教授がこのコースを受講している。
各々の研究テーマは多様であるため、各人がどのようなアイデアを持って、ダイナミックシステムアプローチを自身の研究に適用するか、ということにも大きな関心がある。このように、多様な関心を持つ者たちと、ダイナミックシステムアプローチを共に学習できることは、私にとって、何より喜ばしいことである。
私自身、共同学習の意義を重々承知していたのだが、これまでの探究生活を振り返ってみると、どうしても同じ志を持つ者を見つけることが難しかったのである。だが、そのようなことは、もはや杞憂に過ぎない状況の中に、私は置かれていると言える。
同じ志を持つ他者と共に学び合えることは、社会的生活を営む一人の人間として、形容できないぐらいの喜びを私にもたらしている。この時を何年待ったことだろうか。
今後のクラスで期待するのは、そうした多様な受講者たちとの交流を通じて、ダイナミックシステムアプローチに関するお互いの理解を深め、当該学問領域の発展に寄与していくことである。