今日は、システムダイナミクスに関する論文を五本ほど読んでいた。システムダイナミクスは、1950年代の後半に、MITのジェイ・フォレスターが提唱したものであり、システム思考を用いたコンピューターシミレーションにその特徴がある。
今日読んでいた論文のうち、三本はフォレスターのものであり、残りの二本は、経営学の分野において日本でも有名なピーター・センゲとジョン・スターマンが執筆したものである。現在の私の関心項目の一つは、まさに「システム」である。
人間の知性や能力を動的なシステムと見立てた研究と実践が、現在最も時間を費やしていることだと言える。システムダイナミクスの考え方と、現在私がフローニンゲン大学で研究しているダイナミックシステムアプローチは共通する事柄が多い。
それもそのはずで、両者は共にシステム理論の考え方を基盤に置いているからである。理論的な共通事項以外にも、技術的な共通事項もある。例えば、使うソフトウェアは違えど、どちらもコンピューターシミレーションを活用するというのは共通しているのだ。
一方、システムダイナミクスの論文を読み進めているうちに、両者が若干異なるアプローチでシステムを捉えていることに気づく。システムダイナミクスは、MITという工科大学に起源があることもあってか、システムのフィードバック関係を工学的な発想で捉えているように思う。
実際に、システムダイナミクスの開発者のフォレスターが専門としていたのは電気工学であるため、そのような色が付いているのかもしれない。一方、ダイナミックシステムアプローチは、もともとは応用数学に起源を持ち、確かに工学分野でも活用されているが、それを知性や能力の発達に適用する分野においては、複雑性科学寄りの発想が色濃くあるように思う。
システムダイナミクスの論文を読んでいても、「カオス」という言葉がそれほど見られないのはそのためかもしれない。印象としては、システムダイナミクスはダイナミックシステムアプローチに包摂されており、システムを構成する要素やシステムに影響を与える変数のフィードバック関係に対して、より焦点を当てている手法だと言えるかもしれない。
両者の理論的・技術的な共通点と相違点については、これから両者を探究していく過程でより明らかにしたいと思う。システムダイナミクスにせよダイナミックシステムアプローチにせよ、それらの手法の意義は、人間の思考特性の限界を補ってくれることにあると考えている。
ジェイ・フォレスターが指摘しているように、私たちの知性は、要素間の静的な関係性を巧みに捉えることができても、時間の経過と共に変化する動的な関係性を巧みに捉えることはできないのだ。また、「プロフェッショナルジャッジメントと数理的ジャッジメント」に関する記事で言及したように、私たちの知性は、多数の変数を発見することはできても、それらを統合して一つの判断に至ることには向いていないのだ。
このような思考の限界を私たちは不可避に抱えている。それらの限界を乗り越えていくための手法として、システムダイナミクスやダイナミックシステムアプローチは非常に有益だと思う。