今日の午後、二つのインターネットブラウザーを使って、同じアプリケーションを起動させてみたところ、その起動速度が異なることに気づいた。気になったので、ブラウザーごとの回線速度を調べてみると、随分違いがあることがわかったのだ。
また、ブラウザーごとの毎秒の回線速度の波形が違うのではないか、というようなことも考えてみた。そのようなことを考えてみると、本日目を通していた専門書の中に、知らなかったノイズの種類を発見した。
以前紹介したように、私たちの知性や能力は、不可避的に「変動性」を帯びている。そして、そうした変動性は、三つの種類のノイズに分類することができる、と紹介したと思う。しかし、その専門書を読んでみると、どうやら「レッドノイズ」や「ブラックノイズ」と呼ばれるものも存在するということがわかった。
変動性の種類は、わずか三つのものではなく、実は多様な種類があるのである。こうしたことは、人間の意識状態にも当てはまる。アメリカの思想家ケン・ウィルバーのインテグラル理論を学んだ者にとってみれば、意識の状態にも様々な種類のものがある、というのはよく知られたことだと思う。
実際に、インテグラル理論では、「グロス、サトル、コーザル、非二元」という四つの分類が用いられることが多い。しかしながら、意識状態の種類が四つしかないと思うのは、完全なる誤解である。
意識状態に関する近年の研究では、より多様な種類の意識状態があることがわかっているのだ。それと同様に、知性や能力が本質的に備えている変動性にも、多数の種類があるということを念頭に置いておく必要があるだろう。
オランダに来てから、一見些細に思える日々の出来事と自分の探究領域が密接に重なり合っていることに頻繁に気づかされる。今日のインターネットブラウザーの件もまさにそうである。
ブラウザーの速度を秒単位で何気なく観察していると、「そういえば」と思い立ち、書斎の本棚から関連書籍や論文を引っ張り出してくる、ということが起こり、こうしたことはオランダに来てからたびたび起こるのだ。
今回の一件には、さらに続きがある。午前中は、 “An interaction-dominant perspective on reading fluency and dyslexia (2012)”という論文を読んでおり、この論文のキーワードとして「再帰定量化解析(recurrence quantification analysis)」と「1/f揺らぎ」が挙がっていた。
この論文は、来学期に履修する「複雑性と人間発達」というコースの課題文献の一つであり、担当教授のラルフ・コックスは、まさに「再帰定量化解析」を用いた研究を行っている。昨年日本にいた時から、人間の知性や能力の発達プロセスを解明するために、それらの発達プロセスを「波」とみなして研究してみるのはどうか?と考えていたことがある。
実際に、周期的な波を持つ現象を分析するために、「フーリエ解析」が使えるのではと思い、その手法を学ぼうと思っていたことがある。ただし、私は高校時代に化学を専攻していたため、物理学の知識は中学水準しか持ち合わせておらず、その時はフーリエ解析の活用をいったん断念したという経緯がある。
まさかフローニンゲン大学で、再帰定量化解析という手法を用いて、知性や能力の発達現象を波と見立てて探究を深めていけることになるとは、思ってもみなかったことである。この偶然は私にとってとても有り難く、課題文献から派生させて、「波」に関する物理学の論文にも目を通すようになっている。
これは探究上の思わぬ副産物である。再帰定量化解析については、コックス教授から学べるだけのことを全て学ぶ、という意欲を持っている。コースの開始が非常に待ち遠しい。2016/11/4