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457. 知識基盤のない脆弱な実践について


秋が終わることを祝してなのか、冬が始まることを祝してなのか、今日は暖かい日曜日であった。早朝の仕事を終えてランニングに出かけた。今日のランニングは、いつものようにノーダープラントソン公園へ行くのではなく、以前発見したサイクリングロードを走ることにした。

これまでと同じコースを走りながら景色を眺めていると、あるところでふとコースを変えようと思い立った。そうした考えに至らせたのは、視界に飛び込んできた閑静な住宅地であった。住宅地の方へコースを変えると、サイクリングロードとは違う空間が広がっていた。

秋晴れの中、一軒一軒の住宅が個性的な輝きを放っているかに見えた。辺りを行く人も少なく、区画された広大な住宅地が、より一層広大な秩序空間として広がっているような印象を私に与えた。コースを変えてみると、やはりこれまで気づかなかったような発見があるものである。

「オランダの家はお洒落で可愛らしいものが多い」ということを耳にすることがあったが、これまでの私はそのような気持ちに満たされたことはほとんどない。確かに、お洒落で可愛らしい家は時折見かけるが、そうした家は日本でも探せばいくらでもあると思っていたのだ。

しかし、今日のランニングコースで通った住宅地には、思わずランニングの足を止めてしまうぐらいの洒落た家が数多く並んでいたのである。それらの家が黄金色の太陽に照らされ、幻想的な雰囲気を生み出していた。

ランニングと共に移り変わる幻想的な景色の中で、これは別種の夢なのかもしれないと思わされた。フローニンゲンでの日々の生活には、どうしても夢であるかのような性質が常にまとわりついている。この異国の街で自分の仕事を真に深めていくとき、この街が夢ではなく、現実のものとして自分の眼の前に広がっていくことを願う。

ランニングの終盤、知識と実践に関する問題について考えを巡らせていた。どうやら実践力というものは本来、確固とした知識に裏打ちされたものであることが、見落とされているような気がするのである。実際に私が優れた実践者だと思う人は皆、堅牢な知識の体系を獲得している。

最初のキャリアを含め、これまで経営コンサルティングやコーチングなどに携わってきたが、やはり理論的な知識がなければ、高度な実践力を発揮することはできないことを痛感している。学術的な概念や理論は、時に軽んじられることがあるが、それらの概念や理論は、無数の経験的事象から導き出された固有の視点を私たちに提供してくれる。

そうした視点を取り入れながら、実践をより充実したものにしていく必要があると思うのだが、そもそもそうした知識を取り入れぬまま実践を継続させるような傾向があるように思える。もちろん過剰に知識を強調するあまり、そこに何らの実践も伴わないのであれば本末転倒である。

米国と欧州の大学院で学ぶにつれ、日本社会にはどうも学術的な知識を軽んじる傾向が見え隠れしているのような気がしてならない。実際に、日本で博士号を取得した者に職がないというようなことが問題になっていたり、単純に金銭面で評価するのも気が引けるが、学部卒と修士卒の新入社員の給与がほとんど変わらないようなことが見受けられる。この話を欧米出身——実際には他のアジア諸国も含む——の友人にすると、いつも決まって信じてもらえない。

卓越性研究で有名なスコット・カウフマンは、卓越性や創造性に関する発達段階モデルを提唱している。このモデルは四つの段階から構成されており、下からMini-c, Little-c, Pro-c, Big-Cという段階がある。

この段階モデルについて、一つ一つここでは詳しく説明しないが、修士課程や博士課程を修了したての者は、せいぜいLittile-c段階の卓越性を持っているにすぎない。しかし、Little-cの段階はもはやその道の素人ではなく、立派な専門家であることに違いはないのだ。

専門家を正しく評価する枠組みが欠如していたり、専門家と素人の違いが分かる目を持っていないのが、日本社会の特徴として浮かび上がっているような気がしている。日本社会では、多様な領域で専門家と素人が一緒くたにされてしまっており、これは専門家にとっても素人にとっても非常に不幸である。

正当に評価される場所に身を置き、より高度な卓越性の境地に自分を後押ししてくれる環境に身を置くというのはとても自然なことのように思える、という考えに基づいて、今の自分はフローニンゲン大学にいるのだろう。今の自分にできるのは高度な実践力を獲得するためにも、既存の実践力に磨きをかけるためにも、強固な知識基盤を少しずつ確実に積み上げていくことなのだと思う。

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