今日は大学図書館からの帰り道、先日発見したチーズ屋に立ち寄り、ナッツ類とチーズを購入した。ここはチーズ専門店であるため、やはりスーパーで購入するものよりも味がいい。チーズ屋からの帰り道、科学的な理論を創出する方法についてあれこれ考えていた。
今回の研究論文では、主に二つのアプローチで理論を創出していこうと思っている。まず一つ目は、これまでの実務経験や既存の知識を駆使して、ある意味直感的に仮説を生み出し、その仮説をもとに理論モデルを作るという方法である。
これは演繹的な方法でも帰納的な方法でもなく、どちらかというと、チャールズ・サンダース・パースが考案したアブダクション的(仮説推論的)な方法によって理論モデルを作っていくというアプローチである。今回の私の論文は、成人のオンライン学習に焦点を当て、各受講者の動的に変動する多様な学習プロセスを踏まえて、いかに効果的な教育実践を行うことができるのかを探究するものである。
これまで数年間にわたって、オンラインゼミナールを開講してきた経験から、クラスの中でどのようなことが起こっており、ファシリテーターや講師としてどのような介入やアクティビティを行えば、学習を促すダイナミズムがクラス内で生まれるのかを直感的に掴みつつある。
今回は、こうした直感的に掴みつつある持論のようなものを仮説として設定し、そこから理論モデルを作っていこうと思っている。これが一つ目のアプローチである。もう一つは、知識や経験をもとに仮説推論的に理論を創出していくのではなく、データから理論モデルを創出していく方法である。
これは私がマサチューセッツ州のレクティカに在籍していた時に目撃していた理論創出方法である。今回の私の研究で言うと、クラス内でのやり取りを定性的なデータとして文字に起こし、そこから自分を含めて参加者の発言内容を概念化しつつカテゴリーを見出していき、カテゴリー間の関係性をもとに理論モデルを形成していくアプローチである。
こちらは現実のデータから類似点を発見し、それらをまとめ上げていく作業を経て理論を生み出していくため、帰納法的な理論創出プロセスだと言えそうだ。帰納法では、現実の観察データをまとめ上げていくときに「納得感」が重要であると言われるが、この納得感は研究者の経験や知識に大きく左右されるようなものなのかもしれない。
この二つ目のアプローチでは、納得感を常に保持することによって観察データから理論を徐々に積み立てていくことになる。一方、前者のアプローチでは、納得感に基づいて理論を積み重ねていくというよりも、納得感を一っ飛びにした直感的確からしさに基づいて理論モデルを生み出していくことになるのだろう。
前者のアプローチに関しては、パースの全集 “The essential Peirce: Selected philosophical writings Volume 1 & 2 (1992; 1998) “を参考にし、後者に関しては、定性的研究手法に関する手持ちの専門書を引き続き参考にしていこうと思う。
前回のクネン教授とのミーティングで指摘があったように、理論モデルを構築することに終わりはなく、研究者として活動を続けていく間中、自分の理論モデルというのは常に進化していくものなのだ。今回の研究論文では、自分の関心事項に照らし合わせて、暫定的に今の自分で考えられうる最良の理論モデルを構築していきたいと思う。
そして今後の論文で、今回の理論モデルをベースに、あるいは今回の研究で得られた発見事項をベースに新しい理論モデルを構築していくという仕事を行なっていきたい。理論モデルを構築することに終わりはないというのは、どこか自己や世界を探究することに終わりがないことと似ている。
とりあえず今回の研究という具体的なプロジェクトを通じて、成人のオンライン学習に関する自分なりの理論モデルを構築することに加え、理論を創出する方法に対する持論を形成することを絶えず意識しておきたい。