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423. 企業組織における個人の創造性とイノベーション


普段であれば、その日の出来事や授業の内容をその日のうちに文章として書き留めているのであるが、昨日は例外であった。日本から届いたダンボールの開封と書籍の陳列に時間を取り、昨日の授業の振り返りをその日中に行うことができなかった。

こうした振り返りをその日のうちに行い、しかも文章の形に留めておかないと、就寝に向かう最中の意識の中でその日の記憶を遡るような運動が勃発し始める。この運動が始まると、時に長時間にわたって記憶の整理がなされるため、速やかに入眠することができなくなってしまう。それを防ぐためにもやはりその日のうちに、一日の出来事を通じて湧き上がった思考や感情を文章の形で梱包しておく必要があると思った。

昨日は、「タレントディベロップメントと創造性の発達」というコースの第四回目のクラスがあった。今回のクラスもまた自分の関心に火を付けるような内容であった。当初の予定では、今回のクラスは「教育における才能と創造性の評価と支援」をテーマとするものであったが、第五回目のクラスと内容が入れ替わることになった。

そのため、今日はエリク・リーツシェル教授の「企業組織における個人の創造性とイノベーション」という講義が行われた。リーツシェル教授は長きにわたって、産業組織心理学の観点から企業組織における個人の創造性とイノベーション創出について探究をしている研究者である。

個人の知性や能力の発達のみならず、組織の発達、ひいては組織においていかにイノベーションを創出していくかについて関心を持っている私にとって、今日の授業はこれまで以上に得るものが多かった。リーツシェル教授は来学期に「個人の創造性と組織におけるイノベーション」というコースを開講する予定であり、コンテンツのみならずリーツシェル教授の人柄にも惹かれるものがあるため、そのコースは必ず履修しようと思う。

それでは、今日のクラスの内容を元に、リーツシェル教授であれば最終試験にどのような設問を出してくるかを考えてみたい。今日のクラスの内容は盛り沢山であるため、出題に迷うが、例えば「個人の創造性の開発から組織としてイノベーションを創出するまでのプロセスを述べ、プロセスを説明する中で先行研究に基づいた実務的な実効案を述べよ」という設問を設定してみたい。

組織がイノベーションを創出するためには、組織の構成員となる個人が創造性を発揮できるようにしていく必要がある。その際に、個人が単独で創造性を発揮できる状態にしていくというプロセスと個人がチームとして創造性を発揮できる状態にしていくという二つのプロセスがある。

SomechとDrach-Zahavy(2013)が指摘するように、個人の創造性は開発可能であり、それは具体的なタスクやプロジェクトに従事する中で意識的に高めていくことが可能なのである。ただし、ここで重要になってくるのは、創造性を意識的に高めていこうとする姿勢であり、そうした意識を常に高く保つためには一人でタスクやプロジェクトを黙々と遂行しているだけでは非常に難しい。

現在、私は学術論文を執筆する際に、スーパーバイザーに就いてもらっており、自分の研究テーマに対して創造性を発揮できるような支援を受けている。実際に、スーパーバイザーとの対話のおかげで、研究に関するアイデアが泉のように湧き上がることが多々ある。

また、研究上の困難に直面してもスーパーバイザーがメンターとしての役割も果たしているため、創造的なアイデアの創出から具現化のプロセスまで包括的な支援を受けていると思う。このように、個人が創造的なアイデアを創出し、それを具現化させていくまでの道のりで、スーパーバイザーやメンター(あるいはコーチ)のような存在は非常に重要だと思う。

次に、個人がチームとして創造性を発揮していくためには、チームメンバーの構成が鍵を握る。Jackson(1992)の先行研究に基づくと、特にチームの「機能的異質性(functional heterogeneity)」を担保することが重要になる。「機能的異質性」とは簡単に述べると、職種に関する多様性である。理想的には、職種や部署が全く異なるメンバーを集めて一つのチームを形成することが望ましい。

仮にこうした多様性に溢れるチームを形成することが難しければ、少なくとも職務年数や過去の職務経験の内容に偏りのないチーム編成をすることが求められる。実際に幾つかの先行研究を見てみると、個人の創造性を開発し、チームの機能的異質性を担保すればするほど、組織の中で創造性に溢れるアイデアが創出される傾向にあるのだ。

しかしながら、いかに個人の創造的能力を高め、組織の機能的異質性を担保したからといって、実際のイノベーションの創出に至るまでには、もう一つ大きな壁があるのである。それは何かというと、創造性に溢れたアイデアを実際のサービスや製品として具現化させることである。

そして、こうした具現化の鍵を握るのが、組織の中にイノベーションに対する集合的な動機付け、つまり文化を根付かせることであり、そうした文化の中で実際にチームとして共同作業や共同プロジェクトを行わせることである。

簡単に述べると、個人の創造的能力を高め、組織の機能的異質性を担保することは、「創造的なアイデアの創出(idea generation)」に関わることである。一方、組織の中にイノベーションに対する集合的な動機付けを含めた文化を根付かせることやチームとして実際の共同作業に従事させることは「創造的なアイデアの実行(idea implementation)」に関わることなのである。

両者ともに不可欠なものであり、どちらかが欠けている場合、組織の中でイノベーションが起こることは極めて難しくなってしまうのだ。個人の創造的能力を高めるためには、上記で紹介したように、スーパーバイザーやメンター(あるいはコーチ)を活用することが一案としてあり、組織の機能的異質性の担保や創造的なアイデアの実行に関わるフェーズでは外部の専門家やコンサルタントを活用することが一案として挙げられる。

とかく日本では「産学連携」という言葉を強調しないと産業界と学術界が共同できないような状態にあるように思う。また、学術的な専門家は実務的実行能力に欠けている場合があり、逆に企業組織は外部専門家を有効活用するような経験が乏しいように思える場合が多々ある。集合規模で創造性を発揮していくのは一筋縄ではいかないものであり、必ずそこでは様々な関係当事者の共同作業が求められるように思う。

話題が脱線したため元に戻すと、組織としてイノベーションを創出していくためには、「創造的なアイデアの創出」フェーズと「創造的なアイデアの実行」フェーズの中で、個人の創造的能力に関する発達を支援すると共に、イノベーションに関する集合的な動機付けやチームとして具体的な共同作業を行っていくことが大切になる。

SomechとDrach-Zahavyの興味深い研究結果として、特にイノベーションに関する集合的な動機付けがなければ、いかに個人の創造的能力を高め、組織の機能的異質性を担保したとしても、アイデアの実行フェーズでそれほど効力を発揮しないことが明らかになっている。そのため、集合的な動機付けを促すワークショプやグループ学習などがここで重要な役割を果たすことになるかもしれない。

次回のクラスは、「教育における才能と創造性の評価と支援」というテーマであり、引き続き自分の関心事項と強く合致した内容になる。

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