「タレントディベロップメントと創造性の発達」というコースの第二回目のクラスが終わり、帰宅している最中にまたしても不思議な感覚に包まれた。一見すると、フローニンゲンの街での私の日々は極めて単調に映るかもしれない。しかし、そうした表面的な視点を一歩深めてみると、毎日の生活が実に濃密な粒子で構成されていることに気づかされたのだ。
時間の粒子にせよ、感覚質の粒子にせよ、日々を形作る全ての要素の密度が非常に濃いのだ。先ほど感じていたのは、圧縮された高密度の粒子に対して私の感覚が麻痺しているような状態だった。
そうした感覚を抱えたまま自宅に戻り、今日のクラスを担当したイペレン教授であれば、最終試験にどのような記述問題を出題するかを考えていた。おそらく「人々が各々の分野で卓越の境地に至るためには、各人のマインドセットが鍵を握る。二種類のマインドセットについて説明し、その特徴を学習プロセスと関係付けて自由に記述せよ」というような設問になるのではないだろうか。自作したこの設問に対して、クラスの内容を元に回答してみたい。
私たちが卓越の境地に至るためには、どのようなマインドセットを持っているかが重要になる。スタンフォード大学教授のキャロル・ドゥエックは二つのマインドセットを提唱しており、一つは「固定的マインドセット」、もう一方は「成長志向型マインドセット」と呼ばれる。結論から述べると、前者のマインドセットは卓越への道を閉ざすものであり、後者のマインドセットは卓越への道を切り開くものである。
固定的マインドセットを持つ人の根幹には、「人間の知性は固定的である」という考え方があり、他者との比較によって自分の能力を位置付けようとする特徴を持つ。一方、成長志向型マインドセットを持つ人の根幹には、「人間の知性は可変的であり成長可能なものである」という考え方があり、自己評価に基づいて自分の能力を伸ばしていこうとする特徴を持つ。
両者のマインドセットを学習プロセスの中で捉えてみると、次のようなことが言えるだろう。例えば、学習初期の目標設定の段階において、固定的マインドセットを持つ者は、通称「パフォーマンスゴール」と呼ばれる、他者との比較によって生み出される目標を設定する特徴がある。この目標を達成しようとする最中に、自分の能力の低さが露呈することや失敗を極度に恐れる傾向があり、目標遂行の動機は往々にして外発的なものである。
一方、成長志向型マインドセットを持つ者は、通称「マスタリーゴール」と呼ばれる、自己との比較によって生み出される目標を設定し、自分の能力の伸びを絶えず確認する特徴がある。成長志向型マインドセットを持つ者は目標を遂行する過程で、内発的な動機を強く持ち、能力の改善のためであれば、現在の自分の能力の低さが露呈することや失敗を厭わない。
二つのマインドセットは、目標設定の方法のみならず、目標達成へ向けたアプローチも異なる。例えば、固定的マインドセットを持つ者は、目標達成の過程で失敗が予期された場合には、その失敗に対する言い訳を作り出すために、意図的に自分のパフォーマンスを低下させる。これは心理的な防衛反応の一種であり、「自己ハンディキャップ」と呼ばれる。
学生時代に定期試験へ向けた準備の最中、試験とは関係のない書籍や漫画などを突然読み始める、というようなことを経験したことはないだろうか。この行動の裏にはもしかすると、試験の成績が悪いことが想定されるため、試験とは関係のない書籍や漫画を読んで夜遅くまで起きており、それを試験の結果の言い訳にするような意図が隠されている可能性がある。
これは無意識的な防衛反応なので、往々にして自分がそのような隠された意図を持って行動しているとは思いもしないものである。
もう一つ、固定的マインドセットを持つ者の防衛反応を挙げるとするならば、それは通称「フィードバック逃避」と呼ばれるものである。これは、他者に比べて低いパフォーマンスを自分が発揮した場合や何かミスをした場合に、それに対してフィードバックを受けることを極度に避けようとする防衛反応である。
一方、成長志向型マインドセットを持つ者は、学習志向型の戦略を採用する。例えば、自分の能力を少しでも向上させるように準備に励んだり、自分の能力の現在地を確認するために積極的に他者や客観的なアセスメントからフィードバック情報を得ようとする。
さらに、二つのマインドセットは目標管理の方法にも影響を及ぼす。固定的マインドセットを持つ者は、鍛錬の過程の中で進歩の速度が遅い場合には、否定的な感情をすぐに抱きがちである。
これは往々にして、固定的マインドセットを持つ者の目標が他者との比較によって生み出されたものであり、その目標と現時点での距離を過剰に意識するためだと考えられる。ここから、固定的マインドセットを持つ者は、学習過程の中で直面する難題や障害に対するレジリエンスが低い特徴を持つ。
一方、成長志向型マインドセットを持つ者は、自分の能力のさらなる向上に焦点を当てるため、鍛錬の過程の中で進歩が見られなかったり、進歩の速度が遅かったとしても、そこに小さな進歩を絶えず発見することができ、そうした状況に対して否定的な感情を持つことがあまり無い。
その結果として、固定的マインドセットを持つ者と比べると、成長志向型マインドセットを持つ者は学習における難題や障害に対するレジリエンスが高い特徴を持つ。
最後に、無事に目標達成の段階に至った場合にも、二つのマインドセットは異なる態度を示す。固定的マインドセットを持つ者は、もちろん目標達成後も、他者と比較する形でまた別の目標設定をすることは多分にあるだろう。
しかしながら、自分の能力の向上よりも他者との比較に焦点が強く当てられているため、一つの大きな目標を達成した瞬間に、そこで鍛錬を辞めてしまうことが起こり得るのだ。
一方、成長志向型マインドセットを持つ者は、常に自己の能力の向上に焦点が当てられており、自己向上の道に終わりはないということも認識できているため、一つの大きな目標を達成した場合でも、そこから自己精進を継続させる新たな目標を自分の内側の基準に基づいて設定することができるのだ。
結論をもう一度まとめると、私たちが卓越の境地に至る際には、どのようなマインドセットを保持しているかが重要になり、そこには二つの異なるマインドセットがあるのだ。
確かに、固定的マインドセットを持つ者でも卓越性を獲得することは可能かもしれないが、二つのマインドセットの特徴を比較してみると、概して成長志向型マインドセットの方がより卓越への道を切り開いていくことに有益であると思われる。
覚えている範囲で考えをまとめると以上のような回答になると思う。上記はある意味、教科書的なまとめであるため、ここから自分の経験に引きつけるなりしてより考えを深めていく必要があるだろう。
課題図書で挙げられていた産業組織心理学の論文を読みながら、個人のみならず組織にも固有の集合的なマインドセットがあるという考えに至り、二つのマインドセットは企業組織のタレントマネジメントの方針や戦略にも大きな影響を与えていることに考えが及んだ。この辺りの論点については、また別の機会に取り上げてみたいと思う。