昨日から今朝にかけて、時空間の隙間に挟まっている感覚があったが、降り注ぐ雨を眺めていると無事に現在の時間と場所に戻ってくることができたように思う。オランダ語の学習は非常にゆっくりとだが、確実に日増しに進歩しているのを実感している。こうしたわずかばかりの進歩を見逃さずに発見していくことが、何よりも自分の学習動機に好影響を与えていると思うのだ。
新しい言語を学ぶことに伴って、その言語を使って何かを表現することの苦しみと喜びを実感することができる。新しい語彙や文法事項を習っても、すぐにそれを活用して自分の伝えたいことを表現できるわけではない。その際には、苦虫を噛み潰すようなもどかしさが内側にあるのだが、ひとたびたどたどしくても自分の伝えたいことを表現することができた際には、何とも言えない喜びがあるのだ。
今日は第四回目のオランダ語のクラスがあり、本日も学びの多いクラスであった。毎回新しい語彙や文法表現を習うことが楽しみで仕方なくなってきており、クラスが終わって帰宅すると、自分の専門分野の書籍や論文を読むことよりもまず最初に、クラスの復習と宿題をこなすことが習慣になりつつある。
宿題を済ませてから昼食を摂っていると、今の自分にとって、オランダ語を話すことはパンを囓ることに等しく、英語を話すことは水を飲むことに等しく、日本語を話すことは空気を吸うことに等しい感じがしていた。
オランダ語を話すときは噛むことを意識しなければならないが、英語を話すときはもはや噛むことを意識する必要はほとんど無い自分が出来上がりつつある。これまでは英語と日本語しか習得言語がなかったので、英語で思考することが難しい場合には常に日本語に移行して思考する自分がいた。
私の中では、英語と日本語が交友関係を結んでおり、英語が窮地に陥ると日本語が支援の手を差し伸べすようなイメージがある。オランダ語を学び始めてみて面白い感覚がするのは、オランダ語を学習するときは絶えず英語が支援の手を差し伸べており、そこに日本語は一切介入しないのである。
今こうして日本語で振り返りを行っているのは、今後オランダ語と英語が強力な交友関係を結び、私の日本語を駆逐してしまう恐れがあるからかもしれない。日本語でオランダ語学習の振り返りを行うことによって、三つの言語の関係性を友好なものにしようとしている自分がいる。
数ヶ月前に考えていたドイツ語とフランス語を合わせて学習するという案を採用するよりも、当面は三国同盟の結びつきをより強固なものにしたい。オランダ語、英語、日本語という三国同盟を対等の関係で結べる日が来た暁には、どのような言語世界が自分の中に広がっているのか非常に楽しみである。
今日はいつも私たちにオランダ語を教えてくれているリセットが休みであり、代わりにリスベットという先生が今日のクラスを担当することになった。リスベットもリセットと同様に、あるいは彼女以上に、気さくな先生なのだが、クラスの98%をオランダ語で突き通したことには生徒一同が驚かされた。
リセットはクラスの85%ぐらいをオランダ語で行っていたため、二人のティーチングスタイルの違いに対して、最初は全員が少し戸惑っていた。とにかく今日は意味が分かろうが分かるまいが関係なく、オランダ語漬けになっていた印象がある。
英語をどれだけ許容するかということに関しては、どちらにも一長一短があるが、リスベットの戦略は見事なものであったと思う。リスベットはクラスを開始するや否や怒涛のようにオランダ語で話し始め、その流れから生徒にオランダ語で色々と質問を繰り広げていった。
その戦略によって、クラスの中には「英語禁止」の雰囲気が自ずと醸成されることになったのだ。このような雰囲気の中、私たちはとにかく自分で表現できる範囲のことをオランダ語で伝えようとし始めたのだ。
そして、どうしてもオランダ語で表現できない時には、申し訳なさそうに英語を少々使うことになった。やはりこのように、何とかオランダ語で表現しようとする訓練を積んでいくことは、私たちのオランダ語を向上させることに有益だと思った。
そのような雰囲気の中、今日のクラスが開始されたのだ。準備体操がてら、先日取り扱った会話事例を一文ずつ一人一人が音読していった。私の左隣に座っているイタリア人のファブリツィオが長めの文章にぶつかり、「ご苦労様」と思っていると、彼が私の想像以上に流暢に発音したものであるから、思いがけない早さで私の番になった。
「やるな、ファブリツィオ」という想念が一瞬頭をよぎっていたため、私の文章は極めて短かったにもかかわらず、冒頭に一瞬の空白があった。私はなんとか文章を読み上げ、右隣に座っている中国人のシェンランにバトンを渡した。
この音読が終わった後、テキストに掲載されている家族の写真を見て、これまで習った表現を駆使ししてその家族について自由に表現するというエクササイズを行うことになった。私の練習相手は右隣のシェンランであった。
私:「『この家族は・・・五人です』だよね?」
シェンラン「そうね。じゃあ・・・『この息子は・・・小さい』であってる?」
私:「うん、あってると思うよ。『この娘は・・・息子よりも・・・年上だ』かな。」
シェンラン:「じゃあ、これはどう・・・『この娘の・・・髪は・・・巻き髪だ』」
私:「いいね。さっき習った表現だね。じゃあ、こんなのはどう・・・『彼女には・・・あごひげがある』」
シェンラン:「え?(笑)彼女じゃなくて彼じゃない?それに、あごひげ “board” じゃなくて口ひげ “snor”よね(笑)」
私:「あっ、しまった(笑)。そうだね、もう一度言い直してみると・・・『彼には・・・口ひげがある』かな。」
テキストに記載の写真を見て、それを表現するという何気ないエクササイズにも様々な楽しさがあることに気づいた。クラスの98%がオランダ語で進行していたため、このようにシェンランと英語を交えながら会話できたことがとても良い息抜きになった。オランダ語という固いパンを多く囓ることによって、英語という水を飲み干すことがますます容易になっていく。
その後、所有格について習い、時間の表し方と時間に関係する前置詞について習った。個人的に興味深く思ったのは、オランダ語での時間の表し方である。一番変わっているな、と思わされたのは、例えば「11:25」の言い方である。英語では「eleven twenty five」と言えば良いところを、オランダ語では「vijf voor half twaalf (12時の半分の5分前)」と言わなければならないそうだ。教師のリスベット曰く、奇妙に聞こえるかもしれないが、オランダ人は本当にこのように表現する、とのことである。
本日のクラスも面白い発見がいくつもあった。今日は初めてオランダ語によるライティングの宿題が課せられた。オランダ語のリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングの四つを包括的に学び、少しずつそれらの力を付けていきたいと思う。