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288. 卓越性の起源

関与と恩寵。それは世界からの多様な関与と恩寵の賜物なのだ。

今日の午前中は、ここ三日間読み続けている「タレントディベロップメントと創造性」というクラスで課題文献とされている “The complexity of greatness: Beyond talent or practice (2013)”の続きを読んでいた。相変わらずオックスフォード大学出版の書籍は、ケンブリッジ大学出版と同様に良書が多いと思わされた。

私が在籍するプログラムを統括しているルート・ハータイ先生——ハータイ先生は私よりも一つ年上なだけであり、二人の間柄は親密であるため、以下「ルート」——に事前にメールで連絡をし、私が履修する予定のコースに関する情報を得て、日本にいる時にとりあえず全ての課題図書を入手しておこうと思った。

これはジョン・エフ・ケネディ大学に在学していた時にも実践していたのであるが、学期が始まってから課題図書を読むというので遅いのである。学期が始まる前に、全ての課題図書を少なくとも一回か二回は目を通しておかなければ、授業の進行と課題をこなすことに追われてしまい、提供される学習マテリアルを自分の中で十分に深めていくことができない、という考えに至った。

また、米国の大学院では筆記試験を実施するところは少なく、一般的に学期末にレポートを提出することが要求されるのだ。ジョン・エフ・ケネディ大学も状況は同じであり、ほぼ全てのクラスで学期末にレポートが課されていた。この時にも工夫したのは、学期末になってからレポートを執筆し始めるのではなく、クラスが開始された初日から学期末レポートを執筆し始めるということである。

最初のガイダンスのクラスが終了したらすぐに、どのようなテーマを設定し、どのような内容のレポートを書くかの大枠を決定するのである。課題図書をクラス開始前に読み込むということ、学期末レポートの構想を早い段階で練り、実際の執筆を少しずつ進めていくことによって、精神的な余裕を持ちながらクラスの内容を深めていくことができると思う。

上記の書籍は、ルートが担当する「タレントディベロップメントと創造性」というクラスの課題図書であり、このクラスはプログラムの最初の学期にあるため、今の時期に何回か読んでおこうと思ったのだ。

本書は、「卓越さの起源はどこにあるのか?」という問いを中心に、音楽・芸術・学術・スポーツなどの多様な領域において、高度に発達した知性や能力が育まれる要因やプロセスについて詳細に言及している。才能に関する科学的研究は数多く存在し、その分、議論が紛糾するトピックも多いと言える。

これまでの研究では、卓越性の起源を才能や環境という二つの要因のどちらか一方や、折衷的に両者に帰することが多かった。しかし、近年の卓越性の研究結果が示しているように、高度に発達した知性や能力が育まれる要因やプロセスは実に複雑なのである。

重要なのは、「氏か育ちか」という単純な切り分け方の発想をするのではなく、「育ちを通じた氏」という発想をするということ、より厳密には、「複雑性を不可避に内包した育ちを通じた氏」という発想を持って、卓越性が育まれる要因やプロセスに迫っていく必要があるのだ。

議論を分かりやすくするために、仮に資質と環境という二つの要因に絞ると、近年の卓越性研究やタレントディベロップメントの研究は、どちらかというと環境要因が持つ複雑性の解明に焦点を当てている印象がある。

本書に掲載されている数多くの論文を見ても、確かに資質的なものによって知性や能力の発達が左右されるという側面はあるものの、後天的に経験される複雑な環境要因の方が知性や能力の発達の決め手になっているという印象を持つ。

結局のところ、いくら優れた資質を持っていても、私たちの知性や能力は文脈や環境に依存したものであるという性質を持っているため、特定の文脈や環境において実践を積まなければ、持って生まれた優れた才能も開花しないのだ。

そしてよく言われるように、熟慮の伴わない実践をいくら積み重ねたとしても、卓越性に至ることはない、という点を再認識することが重要だろう。また、「特定の文脈や環境において、熟慮を伴った実践を積めば卓越性に到達するのか?」と問われると、一概にそうだとは言えない。

これは見過ごされがちな点であるが、特定の文脈や環境において熟慮を伴った実践を継続的に積んでいくというのは、簡単に成し遂げられることではないのである。そうした実践を長きにわたって継続させていくためには、「支援的な社会ネットワーク」が不可欠なのだ。

ルートの博士論文を読んでいて面白いと思ったのは、才能を開花させるために必要な社会ネットワークの特質を、応用数学のグラフ理論に端を発する「ネットワーク分析」の手法を用いて解析していることだ。ルートの論文の結果からわかることは、優れた知性や能力を発揮している人物の周りには必ず、多様な支援的ネットワークが密に構築されているのである。

ルートのネットワーク分析を見ながら思い出したのは、ロシアの発達心理学者レフ・ヴィゴツキーだ。ヴィゴツキーが構成主義的発達心理学に果たした一つの大きな貢献は、個人と社会的な文脈の相互作用を強調したことにあった。つまり、私たちは自己と他者の関係性が織り成す網の目の中で学び、そして発達するということを、ヴィゴツキーはいち早く見抜いていたのだ。

ルートの研究やヴィゴツキーの功績に思いを巡らせながら、優れた知性や能力を持つ人に対して私が敬意を表する理由を探っていた。私は何も彼らの知性や能力そのものに敬意を払っているわけではない。

むしろ、そうした優れた知性や能力というものが、当人の絶え間ない鍛錬と共に、多様な人たちの支えや関与によって生み出された賜物だ、という点において彼らの卓越性に最大限の敬意を払うのである。

ある人物の卓越性がこの世界で開花するというのは、いわば、世界からの多様な関与と恩寵によって顕現した産物だと見ることができないだろうか。リオで開催されているオリンピックについて思いを馳せると、そのようなことを考えざるをえなかったのだ。

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