幾分気が早いのであるが、記事194で取り上げた「成人発達とキャリアディベロップメント」というクラスでの小研究テーマとして、「キャリア段階ごとの職業人の自我(identity)と能力(skill)の発達」を取り上げたい。
被験者を募るのはまだ先のことであるが、幾つかの専門職(例:経営コンサルタント、教師、セラピスト、コーチ)の方々にご協力いただき、彼らのキャリア変遷の中で、職業人としての自我と能力の発達の推移をインタビュー手法を用いて研究したいと考えている。
キャリアの変遷に応じて、職業人としてのアイデンティティにも何らかの質的変化があるだろうし、職業人としての能力においても質的変化があるだろう。両者の質的変化を辿りながら、アイデンティティの成長率と能力の成長率との関係性について調査をしてみたい。
例えば、経営コンサルタントという専門職を例にとり、コンサルタントとしてのキャリアを振り返り、それを自伝的に語っていただくことを通じて、キャリアの変遷過程を自らで定義してもらう(例:「前期修練期」「後期修練期」「葛藤期」「熟成期」など)。
その後、キャリアの変遷過程に応じて、職業人としての自分のあり方はどうであったか、つまり職業人としてのアイデンティティはどのようなものであったかを語ってもらう。合わせて、アイデンティティの変容を促した出来事やきっかけについても質問し、成長要因を抽出していきたい。
ここで注意が必要なのは、職業人としてのアイデンティティがいくら優れていても、具体的な実務課題を遂行する能力が伴っていなければ、専門職としての価値を創造・提供できないということだ。そのため、アイデンティティのみならず、キャリアの変遷過程に応じて職業人としての能力にもどのような変化があったのかを語ってもらう。
被験者に自分の専門職で核となる能力を一つだけ抽出してもらい、自らの言葉で定義してもらう。そして、その能力に絞って、キャリアの変遷過程の中でどのような成長があったのかを教えてもらう。ここでもアイデンティティの発達と同様に、能力の変容を促進した触媒となる出来事やきっかけについて質問し、成長要因を探っていきたい。
こうしたインタビューを通じてデータを取得し、職業人としての自我の発達に関しては、ロバート・キーガンの主体客体理論を活用して評価・分析をする。一方、職業人としての能力の評価・分析には、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を活用する。
職業人としての自我(アイデンティティ)を被験者がいかように語ろうとも、キーガンの主体客体理論を用いれば、分析作業はそれほど難解ではない。しかし、能力に関しては、被験者によって命名も定義づけも異なるであろうから、一見すると分析は困難に思える。
例えば、あるコンサルタントは、核となる能力を「課題発見能力」とし、独自の定義をするかもしれない。また、別のコンサルタントは、「関係構築能力」を核たる能力として抽出するかもしれない。
独自の命名・定義づけをしたとしても、被験者ごとにその能力の質的差異(階層構造)を分析することがこの研究の焦点であるため、統一的な尺度でそれらの能力領域を測定することができれば良い。この要求事項に応えてくれるのが、フィッシャーのダイナミックスキル理論のような領域全般型の測定モデルである。
結局のところ、この研究で明らかにしていきたいのは、キャリア変遷と職業人としての自我・能力に関する発達プロセスの関係性と変化のメカニズムである。
幾人かの被験者を募り、これまでの職業人としての人生を振り返りながら、キャリアの変遷と自己のあり方と能力の成長を省みる機会にしていただけたら幸いであるし、私としても上記の関心事項を明らかにする研究につながれば有り難い。