過去のいくかの記事を通じて、私が在籍していたマサチューセッツ州の発達測定専門機関レクティカの測定手法について紹介してきた。Lecticaのいかなる測定手法も「LAS」と呼ばれる評価システムを基盤にしていることをこれまでの記事で見てきた。
LASが焦点を当てているのは、知性・能力の深層構造であり、LASはカート・フィッシャーのスキル理論をもとに構築されたものであるということを改めて確認しておきたい。フィッシャーを始め、その他の認知的発達心理学者が積み上げた実証研究に基づくと、私たちの知性・能力は大きく分けると「反射的知性」「感覚運動的知性」「表象的知性」「抽象的知性」「原理的知性」の5つの階層構造を経て発達していく。
LASは基本的に言語で表現されたものに絞って分析を行うため、対象となるのは「表象的知性」「抽象的知性」「原理的知性」の3つの階層構造である。しかし、LASの開発者であるセオ・ドーソンは、心理統計の技術を用いて、段階を移行する際に見られる特殊な発達現象を浮き彫りにすることに成功し、非言語的な行動を分析することにLASを適用することも理論上可能である。
ただし原則は、LASはフィッシャーの理論に則って、言語で表現されうる知性・能力領域に的を絞って適用される測定システムであると言える。
LASが分析対象とする「反射的知性」「感覚運動的知性」「表象的知性」「抽象的知性」「原理的知性」は、どれも知性・能力発達の主要な階層構造を表している。つまり、私たちの知性や能力は、5つの階層を経て成長・発達し、それまでの階層構造が新たに再組織化されていくのである。
一つ目の「反射的知性」というのは最も基本的な階層構造であり、直感的・無意識的な反応を生み出す特徴を持つ。例えば、幼児が見せる反射的な行動は、まさにこの知性構造から生み出されたものである。
二つ目の「感覚運動的知性」は、反射的知性を一段高次にまとめ上げる形で再組織化されたものである。感覚運動的知性は、言語が生み出される前の知性であり、意識的な動作や物理的な環境への働きかけ(例えば、ドアを開ける、物を掴むなど)を司る知性である。
三つ目の「表象的知性」は、感覚運動的知性を一段高次にまとめ上げる形で再組織化されたものである。表象的知性は、頭の中での心的な想起を司る。私たちは、言語を用いることによって、事物を頭の中で想起することができる。これはまさに表象的知性の働きによる。
ただし注意が必要なのは、表象的知性は具体的な事物のイメージを司るものであり、抽象的な概念を取り扱うものではないということである。例えば、「机」という言葉を聞いて、物理的な机を想起することはできるが、表層的知性では形のない「愛」や「友情」などの概念を把握することはできない。
四つ目の「抽象的知性」は、表象的知性を一段高次にまとめ上げる形で再組織化されたものである。この知性構造を獲得して初めて、目には見えない抽象的な概念を理解することができるようになる。
最後の「原理的知性」は、抽象的知性を一段高次にまとめ上げる形で再組織化されたものである。この知性構造を獲得して初めて、理論的枠組みを構築したり、慣習的な世界観を超越した「後慣習的な世界観」を認識・構築したりすることが可能となる。
ただし、一般の成人がこの知性段階に至ることは極めて稀であり、この知性段階に到達するためには、大学院レベルの高度な教育やそれに類する内省実践が要求されることが実証研究で明らかになっている。
さらに、これらの階層構造には一連の知性・能力段階(スキルレベル)が存在している。簡単に述べると、各々の階層構造において、扱える対象がどんどん複雑化していき、その複雑化の過程をスキルレベルの増加として定義している。例えば、最初は単一の概念しか扱えなくても、知性の発達によって概念を複数組み合わせることが可能になる。
概念の単なる組み合わせから、概念的に複雑なシステムを構築することができるようになる。さらに知性が発達すると、複雑なシステムを統合させるメタシステムを構築するようになっていく。
比喩的な表現をすると、最初は「点」しか捉えることができなかった状態が、点と点を結び合わせて「線」を生み出し、線と線を組み合わせて「面」を生み出し、面と面を組み合わせて「立体」を構築していくようなイメージで知性や能力が成長・発達していく。この成長プロセスは各階層構造で繰り返されるのがポイントだ。
要するに、表象的知性の階層内でメタシステムを構築できるレベルまで知性が成熟すると、そのメタシステム(立体)が次の抽象的知性階層の「点」に変容するということだ。このようなプロセスで知性は成長・発達していき、合計で13個の知性段階(スキルレベル)が存在することをカート・フィッシャーは明らかにした。
マイケル・コモンズを始めとした何人かの研究者は、それ以上の知性段階も理論的に提唱しているが、ザッカリー・スタインが指摘するように、それらの高度な段階はまだ実証データが少なく仮説的な段階と言える。
「原理的知性段階」を超えるような高度な知性段階をお目にかかることは滅多にないが、興味深いのは、そのような高度な知性段階に到達したすると、非常に抽象的な概念を束ねるような新しい語を創造する傾向にあるということだ(例:「方法論的多元主義」や「ポスト形而上学的メタ理論」など)。ある種、異様とも思えるこうした言語表現を生み出す知性は、傑出した個人や特殊なコミュニティー(アカデミックな世界など)の中で確立される。
実際にケン・ウィルバーは、LASで把握できる知性段階よりも高次のレベルまで想定しており、それらの段階は言語超越的なレベルであるため、言語に忠実なLASの測定手法でどこまで測定できるかは探究の余地があると思う。
まとめとして繰り返しになるが、LASは言語表現のみに着目した測定手法である。LASがどのように言語表現を分析していくかというと、論理構造と構成要素である概念に焦点を当てていく。具体的には、論理構造の複雑性の度合いと概念の抽象性の度合いの二つを評価する。この二つを分析することによって、言語に立脚した知性や能力の成長プロセスで繰り返し現れる階層構造が見えてくるのだ。