記事193に引き続き、フローニンゲン大学での一年目のプログラムで履修する6つの科目の内、残り2つのクラス内容について簡単に紹介したい。
5-1. 成人発達とキャリアディベロップメント
成人以降の発達を専門とし、企業組織と協同させていただく機会が多いという都合上、キャリアの発達と組織人の知性・能力の発達について考えさせられることがよくある。私たちの知性は生態系のようなものであり、どのような環境下に置かれるかによって、知性や能力の形が変化する。
職場環境において、どのようなタスクに従事するのか、どのような役割を担って業務を遂行するのかは、当人の知性や能力の種類や形状を決定し、その成長速度や成長の道筋までも決定づける。つまり、キャリア開発は、組織人の知性や能力の種類・形状や成長速度・道筋を決定づける非常に大きな役割を果たすことになる。
20歳前後から65歳近くまでの期間、企業人は特定の組織で働くことになる。多くの企業において、組織は構成員の成長・発達を育む場として健全に機能しているのか?それについては大いに疑問がある。組織が構成員の成長・発達を健全に育む場として機能すること。それを実現するために、発達心理学と産業組織心理学の知見は一役買うのではないかと思っている。
それらのことを踏まえ、成人発達(発達心理学)とキャリアディベロップメント(産業組織心理学)を架橋するこのクラスを履修してみようと思った。
5-2. 発達支援の科学:実証的コーチングとメンタリング
上記のクラスを履修するか、こちらのクラスを履修するか決めかねている。ロバート・キーガンなどが提唱する成人発達理論とケン・ウィルバーが提唱したインテグラル理論を基盤にした発達支援コーチングの資格をカナダで取得してから、早いもので4年が過ぎた。
ジョン・エフ・ケネディ大学大学院の修士論文では、発達支援コーチングが認知的発達と社会的・感情的発達に与える効果について実証的研究を行った。それ以来、コーチングのみならず、メンタリングなどの発達支援に関する学術的な研究と実践を継続させていた。
しかしながら、ここ最近、改めて発達支援手法を科学的に探究したい、という思いが湧き上がってきていた。具体的には、ジョン・エフ・ケネディ大学大学院時代の修士論文において、コーチングの前後を比較する形でその効果測定を行っていたが、コーチング全期間におけるクライアントの変化をより詳細に分析したい、と思うようになっていた。
コーチングの前後を比較するだけでは、クライアントの変化の要因やタイミングを特定することが難しい。それに対して、ダイナミックシステム理論を活用すれば、そうした変化の要因やタイミングをより正確に分析することができる。
こうした分析をすることによって、コーチングのみならず、対人支援全般に活用できる科学的な知を抽出することができるのではないかと期待している。「実証的コーチング」を冠した書籍や学術論文はかなりの数存在しているが、未だダイナミックシステム理論を活用したコーチングに関する実証研究というのは存在していないのではないかと思っている。
実際に研究を開始する前(もしくは研究の最中)に、先行研究の綿密な調査をしなければならないが、ダイナミックシステム理論を活用した実証的コーチング研究を行うことによって、当該専門領域に新たな知見を付加したいと望んでいる。
特にこの一年間は、発達心理学や発達支援に関する書籍や専門論文に目を通すことをほとんどしておらず、他分野の文献ばかりを読み続ける日々が続いていた。そのため、ここで一度立ち止まり、発達支援に関する最先端の科学的な研究成果を学び、自身の実践技術を検証・改善することに意義を感じている。
発達支援コーチングやメンタリングは、とかく自分の専門実践領域であるという思い込みゆえに、日々の実践に対する省察を怠りがちになる。そうした怠惰さを戒めるためにも、改めて自分がどんな概念や理論に立脚して日々のセッションを行っているのか、技術的な側面でどういったところを改善していけるのか、自分の発達支援はどういった実証的な成果があるのか、このコースを通じてそれらを探究していきたい。
6. 創造性の測定評価
これまでオットー・ラスキーのIDMやセオ・ドーソンのLecticaなどの研究機関で、知性や能力の評価・測定に関する専門トレーニングを受けてきた。しかし、これまで「創造性」という知性領域に関する測定を行ったことはない。
正直なところ、創造性をどのように定義し、それをどのように評価・測定することができるのか大いに関心がある。このクラスでは、創造性の評価手法に関する知識基盤を確固たるものとすることを第一に掲げ、その測定手法にも習熟していきたいと思う。
シラバスを眺めていると、創造性の評価に関しても、やはり様々な測定手法があり、創造性の定義を決定づけるパラダイムにも変遷があるようだ。そうした多様な測定手法のそれぞれの特徴を的確に掴むだけではなく、創造性を取り巻く歴史的・理論的な変遷までも射程に入れた探究をしたい。
創造性を測定する際に誤解を招きやすいのは、それが「測定のための測定」とみなされやすいことだろう。こうした傾向は、その他の知性・能力領域全般の測定に当てはまることであるが、あくまでも測定をする目的は、測定対象となる知性や能力を育むことにあると思っている。
すなわち、「測定のための測定」ではなく、「育成のための測定」という発想をすることが大切になる。そうした発想に基づき、創造性を育む実践につなげる測定評価を志し、実際の企業組織や教育現場で活用できるように、創造性の測定評価に関する理解度とスキルをこのクラスを通じて涵養していきたい。