それでは、ここで一旦これまでの記事「157-165(164を除く)」をまとめたいと思います。これまでのところ、「発達の高度」という概念を明瞭にするために、構造的発達理論の歴史において鍵を握る幾つかの概念を見てきました。
ケン・ウィルバーが提唱しているように、多種多様な知性領域を一つの共通な尺度で測定することが可能でありながら、それらは依然として「りんごとオレンジ」のような差異を持つことにも注意が必要です。
この考え方に最初に到達した人物はジェームズ・マーク・ボールドウィンです。発達理論の歴史的展開を俯瞰的に眺めると、この考え方はボールドウィンから始まり、ジャン・ピアジェ、ハインツ・ワーナー、ローレンス・コールバーグ、そしてカート・フィッシャーへと連綿と受け継がれていきました。
こうした歴史的展開の末、タスクの種類や文脈によって定義づけられる多様な認知能力を、発達構造が持つ共通の特性に基づいて一つの尺度で測定することが可能となりました。まさにLASという測定手法は、こうした共通の尺度を提示する測定モデルなのです。
測定手法と理論モデルの間には重要な区別が存在します。測定手法は現象がどのようにモデル化されるのかにかかわらず、その現象のある側面を正確に映し出すことができます。例えば、温度計が測定手法の好例です。温度計は、様々な物質が異なる化学的・物理的なプロセスによって熱を帯びていたとしても、そうした物資の温度を正確に測定できます。
私たちは、化学や物理の領域に存在する様々な理論モデルを使って、熱という現象を説明することができますが、温度計によって計られる同一の性質に基づいて熱を測定することが可能になるのです。LASはまさに温度計のようなものなのです。
すなわち、LASは発達という現象に潜む特定の性質を計測することができるのです。しかし、LASは理論モデルではないため、発達に内在するプロセスを説明することはできません(温度計は、ある物質がどのように熱を帯びたのかを説明できないのと同じです)。
それに対して、カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論は、そうしたプロセスを説明することができる理論モデルの一例です。理論モデルと測定手法は相互に関連し合っている必要がありますが、両者を混合してはいけません。そうした混合はライン絶対主義に陥る危険性があります。
それゆえに、領域全般型の発達モデルと領域全般型の測定手法は異なります。ピアジェは、特定の理論モデルを使いながら(例えば、同化、調節、均衡など)、全ての発達現象を説明しようと試みました。
このモデルはとりわけ論理・数学的な知性を対象としており、論理・数学的な知性とは関連しない領域の発達現象をこのモデルによって説明しようとすることはライン絶対主義に陥ることになります。しかし、測定手法は説明記述を伴わないので、一つの測定手法を拡張適用することは、理論モデルを拡張適用することよりも問題は小さいです。
今後詳しく見ていきますが、領域全般型のアセスメントシステムは、特定の発達領域を定義づけることによって理論モデルと測定手法を融合させます。こうした融合は、測定技術の適用を制限してしまいます。
一方、LASは極めて異なる分析戦略を採用しており、測定技術の適用可能性と有効性を高めることを可能にする領域全般的な概念(例えば、階層的複雑性)を用いて発達現象を特徴づけていきます。さらに、このように理論モデルと測定手法を差異化することによって、ライン絶対主義に陥ることを防ぐことが可能になります。