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165.「領域全般型」の測定手法の誕生:マイケル・コモンズの階層的複雑性理論


記事163. ローレンス・コールバーグからカート・フィッシャーへと受け継がれる思想:多様な知性領域に存在する領域全般型の特性」では、ローレンス・コールバーグからカート・フィッシャーに受け継がれた発達思想「領域全般型の発達特性」について紹介しました。

実はフィッシャー以外にも、ハーバード大学医学部精神科のマイケル・コモンズは、認知能力に存在する領域全般型の特性である「階層的複雑性」という概念を提唱しています。

コモンズも私たちの認知能力は、複雑性・抽象性・差異性・統合性が増す方向に進化していくという特徴を発見しています。階層的複雑性という概念は、まさに認知能力の構造的なレベルを指し示しています。

フィッシャーと同様に、コモンズは「タスク分析」に着目し、認知能力の階層的構造は特定のタスクを与えることによって顕在化されると述べています。例えば、「雨が降れば傘を持って行こう」というような発話構造を生み出す条件的・仮説的な認知タスクは、「雨が降っている」というような単純な発話構造を生み出す認知タスクよりも階層的に複雑です。

これはなぜなら、前者の発話構造レベルは後者のそれを包摂しているからです。つまり、ピアジェやワーナーが指摘しているように、条件的・仮説的な言語表現は直線的な言語表現を階層的に含んでいるのです。

こうしたプロセスはまさに、高次元の認知タスクで要求されているものは、低次元の要求事項を「含んで超える」ということを示しています。与えられるタスクの要求事項を分析することによって、どれほど多くのサブスキルが包摂され、超越されているのかを理解することが可能になります。

フィッシャーのスキル理論やコモンズの階層的複雑性理論で見られるこの種の分析は、特定の認知スキルの発達構造とそのプロセスを精緻に測定することを可能にしてくれます。認知スキル構造が持つ階層的な複雑性に着目することによって、認知スキルの種類に関わらず、いかなる種類の認知スキルの成長プロセスでも分析することができます。

つまり、認知スキルが持っている領域全般的な発達特性に焦点を当てるがゆえに、あらゆる知性領域の中で発露される認知スキルの階層的な複雑性を明らかにすることができるのです。実際にフィッシャーは、この分析手法を用いて、数学的知性、自己認識力、認識論的推論能力、道徳的推論能力など様々な認知スキルの成長プロセスを分析しています。

さらに、フィッシャーは文脈や与えられるタスクの種類を変えることによって、同一領域内におけるスキルレベルの差異も明らかにしています。フィッシャーを初めとして、数多くの実証研究の集積によって、領域全般型の知性測定手法が生み出されることになったのです。

【追記:ハワード・ガードナーとケン・ウィルバーの主著再読】

この数日間、ハーバード大学教育大学院教授ハワード・ガードナーの “The Mind’s New Science: A History of the Cognitive Revolution”とケン・ウィルバーの “Up From Eden: A Transpersonal View of Human Evolution”を読み返しています。

前者は今から30年前に書かれたものであり、後者は約35年前に書かれたものです。

実のところ、多重知性理論を始めとするガードナーの功績には敬意を表していたのですが、近年のガードナーに対しては認知的発達心理学者としての研究活動には従事していないという印象を持っていたため、それほど彼の書籍を読むということをしていませんでした。

さらに、ジョン・エフ・ケネディ大学を卒業してからのこの2年間は、ケン・ウィルバーの思想とも意識的・無意識的に距離を取っていました。しかし、改めて上述したガードナーとウィルバーの書籍を読んでみると、中身の充実ぶりには目を見張るものがあります。

ガードナーの書籍に対しては、認知的発達心理学の誕生史をここまで幅広く多角的に調査したのかということに驚かされ、ウィルバーの書籍に対しては、人類が初めて登場した時代から現在に至るまでの人類全体の意識の発達を論じるというスケールの大きな試みに改めて驚かされました。

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