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161. あらゆる発達領域に通底する「普遍的な発達空間」の存在


記事160.意識の特性と「サイコグラフ」について」では、人間の意識が持つ様々な特性と、多様な知性領域を描写する「サイコグラフ」について紹介しました。今回の記事は、意識の高度分析についてさらに踏み込んだ解説をしていきます。

発達理論の領域を俯瞰的に眺めてみると、無数の理論的枠組みが存在しています。そして、それらの発達理論は、どれも明らかに固有の発達領域について説明しています。そこで問題となるのは、それら多様な発達理論を統一するような大きな絵を描くことは可能か?ということです。

つまり、多様な発達理論固有の差異を尊重しながら、それらを統合するような共通性を見出すことはできるのか?ということが論点です。さらに、それらの多様性を包摂するような思考の抽象化は可能でしょうか?

この問いに答える際に鍵を握るのは、ウィルバーが “Integral Psychology(2000)”の中で述べているように、すべての発達モデルは暗黙的に一つの共通する発達空間を指し示しているということです。

ウィルバーのこの指摘は、私たちに示唆を与えてくれます。どういうことかというと、多くの発達領域は共通する一つの発達空間を通過する、あるいは一つの普遍的な発達特性を持ち合わせているということです。

ウィルバーは “Integral Spirituality(2006)”でまさにこの点を指摘しているのです。ウィルバーの主張を要約すると、無数の発達領域は確かに異質のものであるが、それらの領域を隣り合わせに並べてみると、すべての発達領域が同一方向に進化を遂げていることがわかります。

より具体的には、すべての発達領域が複雑性・抽象性の増加の方向に発達していくということです。ここでウィルバーも「すべての発達領域の高度を測定するような一つの共通の物差しは存在するのか?」という問いを投げかけています。実際にこの問いは、多くの発達論者を長年にわたって悩ませていた問題でした。

この問いに対して二つの説明論理があります。一つは、多くの発達論者が認めているように、共通の物差しを認知的発達ラインに置くという考え方です。この考え方は、意識を司る認知的発達ラインは他のすべての知性領域と関連するという論拠に基づいて生まれました。

もちろん、発達研究が示しているように、認知的発達ラインの成長は他の発達ラインの成長に必要ではありますが、十分ではないということに注意が必要です。

もう一つの説明論理は、上記で指摘したように、すべての発達領域には共通する進化の方向性が存在するというものです。すべての発達領域は複雑性の増加とともに発達を遂げていきます。イメージとしては、人間と植物は別個の生物種ですが、どちらも新たな生命体として生まれてくるためには、種の段階を経て個体の段階に至るという共通のプロセスがあります。

特に二つ目の説明論理をもとにして、あらゆる知性領域の発達を測定する共通した物差しを開発できる可能性が浮上します。ウィルバーが多様な哲学思想や発達理論を一般化して一つの統一理論を構築したように、現存する多様な発達測定システムを一つの統一的なシステムにまとめ上げることが可能になります。

もし一つの共通した物差しがあれば、私たちは異なる発達モデルや測定手法を統一された一つの発達空間において定義することが可能となります。しかし、原理的にすべての知性領域に共通する性質を抽出することは極めて困難です。

せいぜい可能なのは、共通する性質のうち測定可能なものを選び出すことです。まさにこうしたことを可能にしたのがレクティカが提供するLASと呼ばれる測定システムなのです。

すべての知性領域において言語で表出される共通した発達プロセスに焦点を当てることによって、LASはあらゆる知性領域の発達測定を行う共通した物差しとしての役割を果たすことが可能です。

しかしながら、そうしたモデルを提唱する前に、理論的に幾つかの課題が存在します。ウィルバーが指摘しているように、ある知性領域の発達レベルをそのまま他の知性領域の発達に転用することはできません。

例えば、道徳的知性に含まれる「前慣習的」「慣習的」「後慣習的」という三つの発達段階を単純に認知の発達を説明する際に用いることはできないということです。なぜなら、後形式的操作段階の認知的発達レベルには、上記三つの道徳的知性の発達レベルが含まれ得るからです。

要するに、認知的な知性が後形式的操作段階であったとしても、前慣習的な道徳的知性を持っている可能性もあれば、慣習的、あるいは後慣習的な道徳的知性を持っている可能性もあるのです。

多くの発達心理学者は認知の知性領域を発達の共通尺度にしようとしていましたが、これは認知的な発達領域を絶対化する問題を孕んでおり、知性の段階は固有の発達領域において生じる現象であるというウィルバーの主張とも相容れません。

それでは、どのようにしたら認知的な発達領域を絶対化することを避け、共通の物差しを開発することが可能になるのでしょうか?LASは見事にこの問題を解決し、あらゆる知性領域を測定する共通の物差しを開発することに成功しているので、次回の記事でその誕生背景を見ていきましょう。

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