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138. 「統合心理学」としてのダイナミック・スキル理論


これまで紹介してきたように、新ピアジェ派の伝統はジェームズ・マーク・ボールドウィンから、ジャン・ピアジェ、ローレンス・コールバーグ、カート・フィッシャー、セオ・ドーソンに脈々と受け継がれてきました。この伝統は、人間の認知とは何か、それはどのように発達するのかを解明しようとする情熱や試みの上に積み重なってきたものです。

新ピアジェ派の理論モデルが持つ包括性や説明力を考慮すると、彼らは単に自我の発達を論じることをせず、それを含んでいながらも超越していたと言えます。現代における発達心理学の多くは、心の一つの側面や特定の機能を解明することに焦点を当てているのに対し、新ピアジェ派はより包括的な心理学理論を提供しています。

特に、カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論をケン・ウィルバーのインテグラル理論の枠組みで捉え直すと、それは意識段階(Levels)、多様な知性領域(Lines)、意識の状態(States)、意識の分類(Types)などを包摂しているため、真の意味で「統合心理学」と呼んでも過言ではないでしょう。

ダイナミック・スキル理論は多数の実証的な研究に裏打ちされており、さらには数多くの発達現象を説明する強固な理論モデルを提供しています。

例えば、意識の構造的発達、意識の発達と脳の組織化の関係性、発達が持つ非線形的なプロセス、発達プロセスを形成する感情の役割、道徳的知性と推論能力の発達、トラウマが自我の形成に与える影響、学習障害の性質と発達など、枚挙にいとまがありません。

こうした例からわかるように、新ピアジェ派の理論的枠組みは実に生成力のあるものなのです。「生成力がある」というのは、一つの理論が対象とする射程が広く、実務の世界における応用範囲が広いということを意味しています。

さらに、新ピアジェ派の理論は取り扱う対象範囲が広いため、新ピアジェ派の理論を学習すると自我の発達理論など他の理論モデルを理解することがより促進されます。例えば、フィッシャーはトラウマや虐待などの影響下における自己認識力の発達を研究し、これまでの自我発達理論では説明のできなかった多様な発達のプロセスを明らかにしました(以前紹介した「発達の網の目構造」)。

この優れた研究の重要な発見事項は何かというと、個人の自我は日常生活における人間関係によって大きく形が変わり、自己認識力や他者認識力はそうした関係性に依存して異なる発達プロセスを持つということです。虐待を受けた子供はしばしば発達遅延を経験しますが、フィッシャーの研究成果が示しているのは、そうした子供は通常とは異なる発達領域の中で高度に発達している可能性があります。

つまり、自我の形成プロセスは単一のものではなく、多様な発達プロセスが存在するということです。そして、そうした多様なプロセスは感情や人間関係によって大きく影響を受けるということが大事な点になります。

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